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司10 (2)

◆aPPPu8oul.氏

街中は予想通り、幸せそうなカップルと家族連れで溢れかえっていた。
中にはもちろん、男同士や女同士で歩いているものもいるが、とにかく一人で歩いているのは浮く。
それでも大人しく一人で帰るのが悔しくて、わざわざファーストフード店で早めの昼食を取ることにした。
学生の集団や中年女性の二人組みなど、多少は気が紛れるかと思ったが、
やはり男一人黙りこんでバーガーを口に運ぶのは味気ない。早々に店を後にする。
そして、これでもかという大量の食材とケーキと、飲めもしないシャンパンを買って家路を行く。
イルミネーションもクリスマスソングも知ったことか。
あの可愛げのない恋人が隣にいないというだけで、やけに僻みっぽくなって困る。
マンションの駐車場に車を入れて、大荷物を手に部屋に向かう。
司の来た形跡はない。もちろん携帯も鳴っていない。
一人の部屋はまた冷え切っていて、もういっそはやく日が暮れてしまえと思う。
早めの昼食をとったおかげで、もうほとんどすることがない。
なんとはなしにテレビをつけてみても、どこもかしこもクリスマス特番とやらで盛り上がっている。
気に食わない。
自分の心の狭さに溜息をついて、テレビを消しソファで横になる。
天井に伸ばした手は何も掴まない。
掴まないまま自分の胸に落ちて、お前のここは空っぽなんだと思い知らせる。
「……司」
この間ここで怒らせたときの、泣き顔が目に浮かぶ。
そんな顔を見たいんじゃないんだ。嬉しそうに、腕の中で笑う顔が見たいんだ。
着飾っていなくても、女の子らしくなくても、ひねくれていても、それでもいいんだ。
ただ、ここにいて欲しいだけだというのに。
自分の失態を思い出すと、感傷的な気分も馬鹿馬鹿しくなってくる。
目を閉じた。日が暮れたら、一人で冷蔵庫の中にあるケーキを食ってしまおうと思いながら、目を閉じた。

気付けば、本当に日が暮れかかっていた。
呆然と身を起して、くしゃみをする。暖房は勝手に切れていた。
「……ない、か」
携帯の画面に目を落としても、それで司がここに来てくれるわけではない。
むしろ、距離ばかり感じられて泣きたくなる。
それでも泣けないのが、男の意地というか、馬鹿なところというか。
がりがりと頭をかきながら、送信済みメールと送信履歴を確かめる。
これだけこっちからはアピールしたんだ。それでも返事をしないというのは強情すぎる。
返事もしないくらい機嫌が悪いなら、わざわざ遊びに――しかももう夜だ。来るはずがない。
「……知るかよ」
呟いて、立ち上がろうとしたときだった。
来客を告げるベルが鳴り、動きが止まる。司だろうか。いや。期待はしない方が良い。
それでも、久々に胸がドキドキと鳴っている。
おそるおそる玄関を上げると、そこには一人の少女が立っていた。
目の前にいるのは、可愛らしいとしか形容できないような、そんな女の子だ。
ミニスカートとブーツ、白いコートと帽子、赤いマフラー、それに、見慣れた大きな瞳。
「……司?」
一瞬、あてつけかと思った。
男装が好きなだけだろうとか、そんなくだらない問題がこの数日間、彼の思考と彼女の眉を曇らせていたから。
「……メリークリスマス」
けれどそれは、思い違いだったようだ。
気恥ずかしげにそう言う司は、そのまま動けずに隆也の前に立っている。
「あ――……」
あまりといえばあまりの展開に、隆也は言葉が出てこない。
寒い玄関で固まってしまった彼の顔を、司が覗き込む。
「……先生? ――まだ、怒ってる?」
気遣わしげに問いかけられてようやく人心地を取り戻し、隆也は司を家に招き入れる。
「いや、そんなことない。いいから入れ。寒かっただろ」
隆也が肩に手を回しても、司は何も言わない。
自然と玄関に足を踏み入れ、まごつきながらブーツを脱ぐ。
不慣れなその格好が、きっと、多分だが、自分のためだということが嬉しい。
先ほどまで体を投げ出していたソファに司を座らせ、いつもより少し距離を置いて隣に座る。
「えー、と、だな、その」
とりあえず、直接謝罪を口にするのが一番良いだろうと言葉を探していると、手に冷たいものが触れる。
見れば、司の細い指が隆也の手を掴んでいる。


「……ごめんなさい……」
先手を打たれて、思わず俯いていた顔を自分の方に向かせ、額を合わせる。
「司。ごめんな……」
「……」
潤んだ瞳が恥ずかしそうに細められて、自然と唇を重ねる。
離れると、はにかんだ笑顔が生意気な口を叩く。
「先生。メリークリスマスは? まだ言ってないよ」
「そっか。そうだったな。じゃあ、メリークリスマス」
にこりと笑いかける。それから、改めて司の体に目を移す。
「しかし……うん、似合うな。可愛い」
可愛らしい膝小僧に何気なく手を置くと、あっさり退けられる。
「……恥ずかしいからコメントはいらない……」
退けられた手で帽子を取って、短い髪を撫でる。
「何で」
「だから、恥ずかしいから」
自然と顔がにやけてしまう。あまりからかうとまた怒られそうだが、やめられない。
「いいじゃないか。可愛いんだから。俺に見せるために着てきてくれたんじゃないのか?」
「……そうだけど……そうだよ。だから、親に怪しまれないように中学のときの友達に口裏合わせてもらって」
「そっか。頑張ってくれたんだな。ありがとう」
頭を撫でてキスをしてやると、むくれていた顔にますます赤みが差す。
「だ、も、もういいでしょ? 何か食べよう――」
「待て。自慢したい」
言った隆也に、冷たい声が返される。
「は?」
だがめげない。司には理解されそうもない思いつきに、立ち上がる。
「よし。自慢しに行こう。誰でもいい。この際」
「え、ちょ、ちょっと? 何? 」
「こんなに可愛い彼女がいるんだってことを、誰でも良いから自慢したいんだ! 」
「はぁ!? ちょ、ちょっと待ってよ! 」
「まだ夕飯には早いだろ。大丈夫、知り合いのいないとこまで行こう」
有無を言わさず司の手を取り、立ち上がらせる。
「せっかく苦労して着てきたんだから、な? クリスマスらしいことでもしよう」
「でも……」
司の言葉も聞かぬうちに部屋にコートを取りに向かい、ドアの前で体をひねる。
「いいから! そうだ、何時まで大丈夫なんだ? 」
立ち尽くしていた司と目が合い、むくれた口から意外な言葉が出てくる。
「……泊まれる……」
「……そっか。なんだ、じゃあなおさら問題ないじゃないか」
防寒具と鍵の束を手に戻ってきた隆也の機嫌はすこぶるいい。
現金な、と呟く司は、それでも足を玄関に向ける。
――ブーツ、めんどくさいのに
それでも気を使って履いてきただけ、隆也が喜んでくれたことは嬉しい。
嬉しくて、怒る気も失せてしまった。
わかりやすく笑みを浮べる隆也と、わかりにくく喜んでいる司は、手を繋いで部屋を出て、車に乗り込んで。
イルミネーションの輝く街に繰り出した。
夕暮れ時の街中はカップルでいっぱいで、誰も人のことになんて興味はなさそうだ。
それでも、視線は必ずどこかで動いている。向けられている。
それがどうしようもなく息苦しく感じられて、司は居心地の悪さに溜息をつく。
「……ね。どこ行くの? 」
歩きながら、隆也の袖を捕まえて聞く。履きなれないブーツは歩きにくくて、歩調が合わない。
「そうだな。クリスマスプレゼントでも探すか。何か欲しいもんあるか? 」
「ない。っていうか、プレゼントなんかいらないから、もう帰ろう? 」
「……何でだ? 」
足を止めて顔を覗き込むと、司は恥ずかしげに視線を逸らす。
「だって……恥ずかしいよ。このカッコ……」
俯けば、視界に入るのは見慣れないスカートから伸びる自分の足と、ブーツ。
姿見で確認したあまりにも女の子らしいその格好が、どうしようもなく恥ずかしい。
「恥ずかしがることなんてないさ。可愛いんだから」
こちらは恥ずかしげもなく言い放って、冷たい頬をなでる。
「…………」


冷たい頬に血が上る。それでもう、司は抗議するのを諦めてしまった。
いつもは好奇の視線に晒されてできないことが、今日はこの服装のおかげで堂々とできる。
しっかりと手を繋いで、歩くことができる。
手を引かれ、ブーツで足を痛めながらも、いつしかその表情は和らいでいった。

結局、どうしても物はいらない、と豪語する司に隆也が折れて、二人は何も買わずに帰ってきた。
それでも二人は満足そうに、一緒に見た様々なものを思い出しては口にする。
大きなツリーや、おもちゃを抱えてころんでしまった子供や、幸せそうな老夫婦の姿など。
そのどれもが幸せそうに輝いていて、数時間前までの大きな隔たりなどすっかり消し去ってしまった。
宅配のピザをとり、ケーキを食べて、シャンメリーを飲んで。
もう一度この夜を祝う言葉を口にして、饒舌に時は過ぎてゆく。
「……司」
ころあいを見計らって、隆也が司の隣に腰を落ち着ける。
何気なく頬に唇を落とすと、嬉しそうに腰の上にまたがってくる。
「なんだ? 積極的だな」
「いーの。一週間分だから」
「そっかそっか。うん。そうだな、それじゃ」
ぐ、と司を抱き上げて、そのままベッドに連れて行く。
じゃれあうようなキスを重ねて服に手をかけると、司がそれを止める。
「待って。ちょっと話、したいから」
「……うん」
真剣な物言いに手を止め、司に覆いかぶさったまま続きを待つ。
それがきっと、あまりにもあっさりとした和解では解けきらなかったしこりなのだろうと気付いたから。
「……あんなことで、怒って。先生からの連絡も無視して、ごめんなさい」
隆也は黙って、先を促す。できるだけ穏やかな表情で。
「でも、先生に会いたかった。先生に触りたかった。触ってほしかった」
その言葉に答えるように、頬を、耳を、うなじをなでる。目を細めた司に顔を寄せて、次の言葉を待つ。
「抱きつきたかった。抱きしめてほしかった」
ぎゅ、と背に回された腕に力がこもる。
「司、って。呼んで欲しかった」
震える声に胸を掴まれる。
「なのに。なのに、ヘンな意地、張って。せん……せい、に、会いたかった、のに」
ぽろぽろとこぼれる涙が頬を濡らす。
それを掌でそっとぬぐってやりながら、胸の奥からこみ上げてくる熱いものに視界を奪われる。
「……先生も、泣いてるの?」
問われて、隆也ははっとする。
「馬鹿言うな。泣いてるわけ……」
言う声が、自分の物ではないように震えている。
瞬きをした瞬間に司の頬にぽたりと落ちたものを見て、思わず表情をゆがめる。
「……泣いてる、な」
司の細い指が、隆也の目をぬぐう。その手が暖かくて、愛しくて、どうしようもない。
「嬉しいんだ。司。司が、こんなに俺のこと、好きなんだって……」
その手を取って指を絡めて、額をくっつける。お互いの瞳だけを見つめて、幸せそうに笑う。
「司……好きだ……愛してる……」
「先生。好き。大好き。愛してる……」
どちらからともなく唇を重ねる。一度目は、触れるだけのキスを。それから、唇を貪りあい、舌を差し入れる。
唇を離しては見詰め合い、見詰め合ってはまた唇を重ねて、それだけで体温を上げていく。
「服、脱がす、ぞ……」
服の上から司の胸をまさぐっていた手が、器用に服を脱がせ始める。
司もそれに応じて、セーターとシャツは簡単にはぎ取れられる。
「……新鮮な眺めだな」
そこに残ったのは、ミニスカートに上は下着だけという姿の司。普段なら決して見られない光景だ。
「い、いいから、はやく……」
「ん。そうだな……」
言いながらも、うなじにキスを落として、スカートの中に手を差し込む。
下着の上から秘所を揉んでやると、くぐもった声が漏れる。
「ん、や、ぁ……」
「嫌じゃない。だろ? ほら」
首から胸へと口を移し、下着をずらして乳首を吸い上げると、一際高い声が上がる。
「ひ、あんっ……だ、ってぇ……もち、いいん、だもんっ……」


「ん……ここ、が? こうがいい? 」
胸を口で責めながら秘所を弄り続けると、さらに良い声が上がる。
「あ、あっ……だめ、せんせぇ……」
立てた膝がふるふると震える。腿を撫でて、上体を起こす。
「ん。せっかくの服、汚しちゃうわけにはいかないもんな」
背に腕を回してブラジャーを脱がせ、腰を持ち上げてスカートも下着もいっきに取り払う。
新鮮な光景は一転して、見慣れた肢体になる。
「……どうしてほしい? 」
顔を寄せて聞くと、小さな声が耳をくすぐる。
「――いっぱい、して……」
「……わかった」


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