祭りの後で


「凄かったですね」

何万発もの光の花が夜空に輝くのを、ただひたすら見ていた。
それが終わった今、周りの客も帰り支度をし始めている。

は、始終、口開けっ放しで間抜け面だったけどね」

鉢屋先輩がその余韻に思いっきり水を差した。
文句を言おうと思ったが、感動したものはしたのだ、何が悪いと開き直ってみたら、意外そうな顔をされた。
それ、思いっきり失礼にあたるって事分かってしてるのか、この先輩は! と思いながら軽く睨み付けて置くことも忘れない。
しかし、今までのことを考えると、の方が失礼な発言をしている回数が多いのだが、無自覚な本人は、その事には気付いていないだろう。

花火も終わったので、は、残りのカキ氷に手を付けることにした。底の方が溶けかけてるのが、残念だ。

「あ。竹谷先輩、ちょっとこっち来てください!」

手招きすると、それに気付いた先輩がこっちまで来てくれた。
先輩が目の前に来たところで、あっかんべーと言葉を発して舌を出すと、変な顔をされた。

「俺、嫌われてる?」
「へ? 違いますって! 先輩、舌見せてくださいよ! べーってしてください」

先輩は、花火が始まる前に恐ろしい勢いでかき氷を食べていた。
あれでよく頭が痛くならないものだと感心しながら見ていたのだが、そう言えば、先輩が食べていたかき氷がブルーハワイだったことを思い出したのだ。
舌を見てもらおうと思っていたので、早速実行したのだ。

竹谷先輩は言われたとおり、舌を出してくれた。
思ったとおり、真っ青だ。なんだか予想通りだったので、おかしくなる。

「あはは、青いすっごい青い!」
「は? おい、雷蔵、俺の舌、どうなってんだ?」
「ぷ、凄い、ま、真っ青に染まって……ぷくく」
「なんだよそんな笑う事ねぇじゃん」
「そ、その色、久々知先輩が、選んだ、んですよー」
「はぁ? 兵助てめぇ!」

竹谷先輩は、久々知先輩を追いかけていった。それを見越していたのか久々知先輩は既に逃亡体勢だったようだ。二人ははるか彼方に消えていった。おおー、さすがバスケ部、俊足だ。


久しぶりにこんな下らない事で笑ったかもしれない。
目じりに溜まった涙を拭いながら思った。

散々な花火大会かもしれないと思ったが、終わってみると、結構楽しかったことに気付いた。
これも、タカ丸と先輩たちが居たおかげだろうか。
また別の人たちとだったら、今日のこの日は味わえなかっただろう。
ある意味で貴重な一日だったのかもしれない。

さん、どうかした?」

不破先輩も笑い終わったようで、黙ったままの私に気付いて、不思議そうに声をかけてきた。
その言葉に顔を上げて、私は穏やかな笑みを浮かべた。

「不破先輩、今日は、本当にありがとうございました。楽しかったです」
「え、あ、う、うん。そう言ってもらえたなら嬉しいかな……でも、僕たち、そんな楽しませた覚えもないんだけどね?」

頬を少し赤らめて、不破先輩は笑った。
その言葉に、首を横に振った。

「私、先輩たちの事、勘違いしてました」
「?」
「会った時から、ずっと変な人たちだなって思ってたんですよね」

の言葉に、不破の表情が困った笑みに変わった。
不破からすれば、複雑な心境だ。そんなことも気付かず、彼女は言葉を続けた。

「でも、いまは、先輩たちに出会えて良かったって思ってます」
「ぼ、僕も、さんに会えて嬉しいよ!」

そんな彼女からの嬉しい言葉に、不破は頬を赤く染まらせながらも自分が伝えたい言葉を発した。
不破は、今日の花火大会で偶然に会えて良かったと神様に感謝した。




「はい! 友達って、本当にいい響きですよね、不破先輩!」

そして、は満面の笑みを浮かべて、彼にとっての禁句とも呼べる言葉を躊躇いもなく吐いた。

「……あはは」

不破はなんだか、もうどうすればいいのか分からず、涙目になりながら愛想笑いを浮かべる事しかできなかった。



(やっば、まじ、この子面白い!)

それを近くで見ていた三郎が、笑いをこらえながらそんな感想を抱いている事にも、もちろん気付くはずもない。




[花火大会編END]
花火大会編終了。タカ丸が空気です。
ヒロインの破壊力が凄まじい。雷蔵が可哀想過ぎる……!
その内、雷蔵メインの救済もの考えてやらねばなりませんね!
080815



[オマケ]

ちゃーん、僕が家まで送ってあげるね」
「あんたの家、駅から正反対でしょうが」
「いいのー、女の子送るのは、男の特権なんだから!」
「へー。でも、遠慮しとく。そんな遅くないんだから、一人で帰れる」
「ええ〜っ! 送りたい! 送りたい〜!」
「じゃあ、不破先輩でも送って行ったらいいじゃん!」
「なんでー!?」
さん、男に送られても嬉しくないからね?」
「あ、不破先輩すみません、ついペロッとこの口が言っちゃいました」
「じゃあ、俺がを送る」
「兵助、なんでそうなる!?」
「じゃあ、私が送ろっか?」
「三郎は駄目!」
「雷蔵、なんで、そんなに必死で止めるんだ……傷付くなぁ」



そして、結局、全員が家まで送ってくれました。