眠れぬ理由
「雷蔵、大丈夫かな?」
スポーツドリンクを飲みながら、兵助は数時間前の騒動を、思い起こした。
あれは吃驚した。視界の端にいた雷蔵が、ぱたりと倒れたのが見えて、一瞬、錯覚かと思ったけど、やっぱり雷蔵は床に転がってて、慌てて先生を呼んで車に放り込んだのだ。
それから数十分後、戻ってきた顧問の先生から、軽い熱中症だ、心配するほどではない。
と、結果を知らされたけど、いつもベンチに座ってるはずの人間が居ないと何となく落ち着かない。
「そう言えば、雷蔵、あんまり眠れてないみたいだったからな」
三郎の言葉に、兵助が、驚いた表情を浮かべた。
「そうなのか? 雷蔵って、枕替わると眠れない性質だっけ?」
その横で同じようにドリンクを飲んでいた竹谷は、ストローから口を離すとそう問いかけた。
その言葉に、三郎は首を横に振った。
「いつもの迷い癖」
「今度は何? まさか、のこと?」
雷蔵が悩むといえば、これくらいしか思いつかない。
思い悩むくらいなら、溜め込まなきゃ良いのに。
「まだ、そっちの方が良かったんだけどな」
「へ? 違うのか?」
三郎の言葉に、久々知と竹谷が顔を見合わせた。
ともなれば、一体、何を思い悩んでいたのか、興味が深くなる。
「ほら、合宿行く日に、雷蔵の靴箱に手紙入ってたの覚えてるだろ?」
「ああ、あれって、もしかして、そうだったのか?」
竹谷の言葉に鉢屋は頷く。
下駄箱に手紙といえば、それが指し示すものは一つしかないだろう。ラブレターだ。
「答えは、一つしかないのに、何で悩むんだ?」
「分かった! どうやって断るか、悩んでんだろ?」
「そこが、雷蔵のいい所であり悪いところなんだよなー」
鉢屋は肯定するように頷いた。ここに居ない親友に対して、微苦笑を浮かべた。
相手を振るのだから、大小あれど、傷つけるのに変わりはない。だから、普通に断ってしまえば良いのだ。
三郎はそう思っているのだが、雷蔵は、相手を傷つけないような返答をしようと思っているのだろう。
本当に、優しい男だ。
「帰りに、なんか買っていくか」
「じゃあ、豆腐」
「豆腐は忘れろ! ゼリーでいいんじゃないか?」
「そうだな」