健全な青少年たち


「雷蔵、もう平気なのか?」
「う、うん……」

三郎に続いて広間にやってきた雷蔵を見た八左ヱ門がそう訊ねた。雷蔵は、返答しながら、その向かいに腰を下ろした。
しかし、少し元気のない雷蔵に、八左ヱ門は心配そうに眉尻を下げた。

「無理すんなよ?」
「あ、うん。それは、もう平気なんだ」

覇気のない笑顔を浮かべていては説得力の欠片もない。
ここは、無理矢理にでも担いで、寝かせておいた方がいいんじゃないだろうか。

「さっきから、こんな調子なんだよ。寝てろって言っても、寝れないって言うしさ」
「我慢はよくないぞ。ちゃんと寝ておかないと、また倒れるじゃないか。俺みたいに、これを食べて栄養つけろ」

先ほどからずっと兵助が静かだと思っていたが、食事をすることに集中していたからか。そうか、この目の前の冷奴が原因か。だから、食事が運ばれてきた時から、妙に目がキラキラしてたんだな。

「うん……」
「手紙の事は、一先ず忘れろ。その調子だと、合宿終わるまでずっと眠れなくなるぞ」

三郎の言葉に、ハッと雷蔵は顔を上げた。
その動作に、三郎が不思議そうに彼を見つめた。

「わ、忘れてた」
「は?」
「手紙の事、すっかり忘れてた! そうだ、それも考えなきゃ」
「待て待て待て! 考えなくていいから!」

うーんと顎に手を当てて考え出した雷蔵を、三郎は慌てて止めた。
食事中くらい、その迷い癖はなくして欲しい。

「じゃあ、雷蔵は、さっきまで何を考えていたんだ?」

八左ヱ門の冷奴にまで手をつけ始めた兵助は、もぐもぐと口を動かしながら、湧き出た疑問符を投げかけた。手紙のことを忘れるくらいの事件ってあったか? と内心で思ったのだ。

「あ、俺の分まで食うな!」
「え? 八左ヱ門、豆腐好きだったっけ?」
「好きじゃねぇけど、食事の量が減るだろ!」
「お前らちょっと煩いから。んで、兵助の言うとおり、何考えてたんだ?」

目の前で繰り広げられるやり取りを仲裁した後、三郎は雷蔵に向き直って、質問を繰り返した。
だが、途端に雷蔵の顔が赤く染まった。これには予想外で、三郎も目を丸くした。
他の二人も食事の手を止めて、凝視している。

「ら、雷蔵? どうした?」
「……い、言わない!」

雷蔵はプルプルと首を横に振って拒否した。
その反応を見て、三郎がニヤリと笑みを浮かべた。

「そうかそうか、言えないような事してたんだなー」
「っ!?」

三郎の言葉に、雷蔵の顔が真っ赤になった。
図星か、はたまた下品な発言をされた故の赤面か。どっちにしろ、三郎としては、からかいの対象だ。

「隠さなくていいんだぞ? 俺たち、健全な男子高校生じゃないか。誰をおかずにしようと」
「三郎! 食事中になんてことを言うんだよ!!」

流石に部員の居る前では大声で言えないので、三郎の耳を引っ張って小声で告げた。

「そもそも、僕は、そ、そんなことしてないっ」

本当に、からかい甲斐のある友人だ。
三郎はニヤニヤ顔を隠すことなく、そんな感想を漏らした。
もちろん暑さで倒れた雷蔵が、そんな下世話な事をしていたとは、露ほども思っていない。
大方、恥ずかしい夢でも見たとか可愛いものなのだろう。

「三郎、雷蔵をからかうのはそのくらいにして置けよ。雷蔵だって、倒れたばかりで本調子じゃないんだからな」

そこで、止めるのは、優等生な久々知兵助だった。
兵助の言葉に、三郎は、肩を竦めて箸を取った。観念して、食事を再開しようと思ったのだ。

雷蔵は、注意が削がれたことにホッと安堵の息を吐いて、自分も食事をするために、箸を手にした。





とうとう下ネタが発動されてしまった……。まだセーフの域?
080829