おバカ娘に制裁を
アホだ。完璧なアホだ。
利吉は、先ほど逃げていったの姿を視界に入れて、本気でそんな感想を漏らした。
何の為に、自分が一芝居打ったと思う。バレたくないという彼女の心情を察したからだ。
それが分かった上で、あんな失態を犯したのかと、問いかけてやりたい。
本当に、どうしてくれようか。
彼等が、の言っていた例の先輩なのだろう。彼女の名前を呼んでいたくらいだから、間違いはない。
だが、ただの先輩という訳ではなさそうだ。さっきから、ヒシヒシと殺気にも似た視線を感じている。まあ、あの一芝居から、恋人か何かと勘違いされているんだろう。
(こんなに居るとは聞いてないぞ)
一人だけかと思いきや、四人。結構な数だ。父さんが知ったら、発狂しそうだな。
あの人の昔からの野望は、彼女を自分の娘にすることだ。伯父と姪で、既に娘同然なんだから、それで良いんじゃないかと思っているのだが、戸籍上でも娘にしたいのだ。つまり、長男の嫁にしたいわけだ。
幼い頃、矢鱈と自分とを一緒に遊ばせるなとは思っていたが、そこに理由があったのかと、後で気付いてため息を吐いたものだ。
親の策略に嵌められるのも癪だったので、早々に彼女を作った時は、勘当されそうになったのを覚えている。そもそも、と私がお互いに気がなければ、付き合いは成立しないという事に気付いて欲しいものだ。
「と、付き合ってるんですか?」
漸く声をかけられた。まつげの長い子だ。
、ね。苗字呼びと言う事は、そこまで親しくもないと言う事か。
「いいや? でも、仲がいいのは事実だよ」
間違っては居ない。親戚だし、家族ぐるみで仲良しだ。
笑みを浮かべて告げると、相手は言葉に詰まった。うん、まだまだ若いな。深読みしてるっぽい。
って、こんな事を考えるから、おじさん臭いとか言われるのか。
「のこと……好きなんですか?」
今度は、その隣に居た子。ちょっと髪がぼさっとしてる。
実に、直球の質問だな。
「もちろん、好きじゃなきゃこんなに仲良くしてないよ」
でも、風呂に入るほどの仲じゃないけどね。
流石の私も、今も一緒に入って冷静で居られるほど出来てない。今回は、本気で理性を総動員させたようなものだ。あの無自覚娘は、本当に爆弾娘だ。父上のクラスの生徒並に、厄介だ。
「そろそろ、私は上がらせてもらうね」
嫌がらせに思いっきり勘違いをさせてやろうと、爽やかな笑顔を浮かべながら、風呂から上がった。
実は、利吉はに対して盛大に怒っていたのだ。
どっちも、大いに悩め。