事件はまだ続く


なんとか落ち着きを取り戻しながら、でもまだ半分混乱はしていたが、このままでいるわけにも行かないので、寝巻きに着替えて髪を整えて、脱衣所を出た――のはいいが、四人が居た。うち一人は、仁王立ちまでしている。

待ち伏せとは、予想外の展開だった。

利吉くんはいない。逃げたのかもしれない。あの後、彼らに状況説明くらいはしてくれたのだろうか。
フォローなかったら、最悪だぞ? 私、破廉恥女のレッテル貼られるんじゃないの?
あ、もしかして、友達やーめたとか絶交宣言されたらどうしよう!?


「こ、こんばんはー」

とりあえず、挨拶をしてみる。
うん、返事がない。これは相当、怒ってますよね。土下座した方がいいでしょうか。

勝手に混浴入ってすみません? ふざけた芝居を打ってすみません?
それとも、タオル巻いてるとはいえ、見たくもないものを見せてしまってすみません?
もしかして、全部だったりして。


「…………
「は、はい!」

背筋が伸びる呼び声だった。思わず、ピシリと体を引き締めてしまいました。

「どうして、お前がここに居る? どうして、男と風呂に入ってるんだ?」

直球ですね、鉢屋先輩。しかも、目が笑ってませんよね。
言い訳とかしたら一刀両断されそうな気がするのは、気のせいでもないですよね。

「えと、この民宿は、うちの親戚が経営してるから、です。はい。毎年、ここに来てるんで、今年も居るんです。お、お風呂は……いつも、あの時間帯に入ってるんです。利吉くんは、うん、ええと、たまたまご一緒しただけ、です?」

うおー、怖い。先輩たちの空気が怖い。

「ほー? たまたまで、男と風呂に入って、抱きつくのか?」
「だ、だって、先輩たちが入ってくるなんて思わなかったんです!」

だって、本当にそうなんだもの。
あんなにいっぱい入ってこられたら、こっちだってビビるし、先輩たちだって気付いたけど、そのときには既に出難い雰囲気だったし。

「俺たちじゃなかったらどうしてたんだ。もし一人のときに、別の男子が入ってきてたら、無事じゃ済まなかったかもしれないんだぞ」
「そ、それは、そうですけど……でも、いつもは、誰も居ないの確認して入ってますし……」
「結果よければ全てよしって考えじゃ、いつか痛い目見るぞ」

全部、すっぱり切られていく。
そもそも、何でこんなに怒られなきゃいけないの?
今回の事は、自分の緩みが招いた事件だ。自分だって、不注意だったってことくらい言われなくても、理解している。明日からは、入る前に女子専用札に切り替えておこうと思ってるし、無理なら檜風呂で我慢しようとも思ってる。

なのに、私一人に男四人で囲むって酷くないですか。
こういうのって、相手が知ってる人だとしても、かなり怖いんですよ。

、聞いているのか? 私は、お前に取り返しの付かない失態を犯さないように十二分の注意を」
「あー、もう、分かってます!」

叫んだ。もうこの際、自棄っぱちだ。

「一体、何なんですか! 先輩たちに迷惑をかけたことは、悪いと思ってます! そんなに怒る事ないじゃないですか!」
「私はお前の為を思って、」
「私の為って何ですか! 父親みたいに煩く言わないでください! 大体、先輩には関係ないじゃないですか!」

歳だって一個しか違わない。なのに、頭ごなしに怒られたら、誰だって反論したくなる。
先輩はそういうのちっとも分かってない!

「っ!」

あれ? え?
鉢屋先輩の表情が一瞬、悲しげなものになったような気がした。けど、瞬きした直後、それは、変わらず怒りの顔だった。さっき見たものは、気のせいだったのだろうか。

「もういい、勝手にしろ!」
「あ、三郎!?」
「こら、待て三郎!」

怒った鉢屋先輩が去っていく。それを、慌てて、みんなが追いかけていく。

え? なんで、こうなっちゃうわけ?
本当は、軽く文句の言い合いして、それで笑って終わりにするつもりだったのだ。
でも、先輩はいつまでもずっと怒ってるから、気づけばこっちもヒートアップしてしまって、歯止めが利かなくなってしまった。
ともかく、本気で怒らせてしまったみたいだ。どうして、こうなったの?

そんなことを考えていたら、誰かの視線に気付いて顔を上げた。
久々知先輩だ。先輩は、追いかけなくていいのかな。

「久々知せんぱ、」
「今のはお前が悪い」
「え?」

それだけ告げて、久々知先輩は、先輩たちを追いかけるためか、背を向けて去っていった。


「どういうこと?」

その言葉の意味を理解し切れていない私は、先輩を追うことが出来なかった。





微シリアスゾーン突入?
080910