西瓜の食べ方にルールなどない!
「切りすぎた」
皿にいっぱい並べられた西瓜を視界に入れて、そんな感想を漏らした。
一人分だけでいいやと思って切り始めていたのだが、気付けば全部切っていた。
「あ、先輩たち食べるかなぁ?」
確か、明日帰るので、今日は練習も休みで自由行動だと言っていたはずだ。
自由行動といっても、ここは田舎だ。行くところといっても、散歩かスポーツセンターか、ちんまりとしたコンビニが一件あるくらいしかない。ならば、部屋にいるかもしれない。
「そうと決まれば」
は、皿を持って目的の場所へ足を進めた。
「せんぱーい、失礼しまーす」
ガチャリと遠慮なく扉を開けた。
寝転びながら雑誌か何を読んでいる先輩たちが、目を点にしてこちらを見上げている。
「さん、吃驚するからノックくらいしてね」
「あ、すみません。うっかり」
「私たちが着替え中だったら、どうするんだよ?」
「キャーと叫んだ方がいいですか? ジロジロ見た方がいいですか?」
「その質問を聞くこと自体が間違ってる」
鉢屋先輩が呆れた表情を浮かべた。
「それよりも、西瓜食べませんか? いっぱい切っちゃって、勿体無いから食べちゃってください」
手にしていたそれをドンと机の上に置くと、寝転がっていた二人が勢いよく起き上がった。
「うわぁ、美味しそう。本当に貰っちゃっていいの?」
「あ、でも、他の部員には内緒ですよ。先輩たちの分しかないんで」
そう告げると、先輩たちがお互いに顔を合わせて嬉しそうに笑った。
西瓜好きなんだなと思うと、持ってきて良かったと心の中で安堵する。
「じゃあ、僕、他の二人も呼んでくるね」
「お願いします」
こっちが呼びに行こうと思っていたが、不破先輩が立ち上がって入り口へ向かったので、手間が省けて得をした。決して、目を離した隙に西瓜がなくなることを恐れたわけじゃない。
「うん、甘い」
「あ、鉢屋先輩、抜け駆け!」
いつの間にか先輩は西瓜を口にしていた。
食べるスピードが速い!
慌てて、一個を手にして確保した。
このペースじゃ、他の先輩たちも速そうだ。私が一個食べ終わる頃に全部なくなってるかも。
こんな事なら、数個だけ冷蔵庫に取り置きしておくんだった。
そう思いながら、早速、西瓜を口に含む。
「ん、あまい」
すっごく熟してる。糖度も抜群だ。冷蔵庫で十分冷やしておいたので、口の中に入れるとひんやりとして、暑さを冷ましてくれる。
「……鉢屋先輩、何か言いたいことでもあるんですか?」
もぐもぐと食べている間、先輩の視線を感じていたのだ。
言っておくが、この西瓜は元々私のものだ。それをここまで持ってきたわけだから、食べてもいい権利は十二分に有るじゃないか。
声を掛けると鉢屋先輩は弾けたように顔を逸らした。
「別に、なんでもない」
「なんですか、それー」
いつもいつも、よく分からない先輩だなー。
「西瓜ーー!」
その声と同時に扉が開いた。この声は竹谷先輩だ。
第一声が西瓜って、どうなの。
「八左ヱ門、意地汚いよ」
「このあっちぃ時は、西瓜が喰いたくなるもんだって! 、でかした!」
そう告げて、早速西瓜を食べている。うわ、速い速い!
「、ごめんな」
「え? 久々知先輩が謝る事ないですよ。それよりも早く食べた方がいいですよ? 無くなっちゃいますから」
苦笑いでそう告げると、先輩も腰を下ろして西瓜を食べだした。
食べ方にも特徴が出るなぁと、四人を見ていて思った。
竹谷先輩は豪快。物凄く。あ、種が口の端についてる。
久々知先輩は、食べ方がなんとなく上品に映った。ただの西瓜なのに、高級なものを食べているように見えるから不思議だ。
不破先輩も食べ方は上品な方だけど、種を出すときは遠慮なくペッて出すような大雑把なところもある。
鉢屋先輩は、珍しくも標準な食べ方だ。普通にちょっとずつ口にして種を出して食べている、でもその行程速度が速いから、いつ種を出してるのか分からない。
(おっと、見てないで私も食べなきゃ)
◇
「ご馳走様〜」
凄い、あれだけあった西瓜があっという間に皮だけになった。
結局、私が食べられたのは2個だけだった。それでも十分だったけど、先輩たち速すぎ食べすぎ。そんなに西瓜好きだったのかと、感心するくらいの食べっぷりだった。
布巾で手を拭いた後、小皿と大皿を重ねて手にした。
すると、それに気付いた竹谷先輩がこちらを見た。
「もう帰るのか?」
「え、はい。西瓜食べ終わりましたし」
「折角来たんだから、もうちょっと居ればいいじゃん?」
その言葉に私は、どうしようかと眉を顰めた。
部員が居るので部屋の掃除はしなくて良くなったので、時間はまだ余っている。
利吉くんは、土井先生の相手をしているので、こっちも暫くすることもないだろう。
読書をしていたい気もするのだが、答えを待っている四人の視線が期待に満ちたものだったので、思考を止めた。
「じゃあ、ちょっとだけ居ます」
「よっし、じゃあトランプしようぜ! ババ抜き!」
まるで、修学旅行のノリだ。まあ、室内で大勢で遊ぶとしたら、それくらいしかないか。
「でもそれだと、勝負付いて面白くないぞ?」
「ああ、雷蔵直ぐに顔に出るもんな。じゃあ、ジジ抜きにするか」
そう告げながら、竹谷先輩はいつの間に持ってきていたのか、トランプを切り出した。一つを見えないように座布団の下に隠して、残りを配る。
「負けたら罰ゲームなー。一番手が最下位に命令できるってことで」
「ええ!?」
配られた手札を見ながら、あんまり捨てるのないなぁと思っていたら、鉢屋先輩がさらっととんでもないことを言った。思わず、驚いて顔を上げた。すると、楽しげな顔をして、こういうのがないと楽しめないだろ? と返された。
確かに、罰があると思うと負けられないと思うし、手加減なんて出来ない。
「さて、始めよっか」
それを合図に、ゲームの火蓋は切られた。