罰ゲームは、誰の手に


「一番あがり!」

わーい。両手を挙げて告げると、先輩たちが意外そうな顔をした。
ふふふ、これでも、勝負事には意外に強いのよね。さて、罰ゲーム何にしようかなー?
ちょっと楽しみだ。

「あ、俺も上がり」
「は!? なんで、兵助が!?」
「なんでって、あがりはあがりだろ?」

他の突っ込みに、不思議そうに首を傾げた。
残るは、3人。一体誰が、負けるのだろうか。

「よっし、私も上がりだ」
「えー!」

今度は鉢屋先輩が上がった。ということは、不破先輩と竹谷先輩のどちらかが負けだ。

「くっそ、雷蔵には負けないぞ!」
「ぼ、僕だって!」

不破先輩の手には二枚、竹谷先輩の手には一枚。竹谷先輩が、当たりを引けば竹谷先輩の勝ちだ。
次で勝負が決まる!

「こっちだ! ってああ! 違うし!」
「ああ、良かったぁ」

珍しく竹谷先輩の勘が外れた。こうなるとどっちが勝つのか予想が付かない。

それから十分後。
始めは、ワクワクとした面持ちで二人の成り行きを見つめていたのだが、何度もそれの繰り返しだったせいか、先輩たちは飽きて雑誌を読み始めた。

「どっちでもいいから、早く決めろ」
「三郎酷いな! 僕は真剣なんだから、応援しろよ!」
「おー、ガンバレー」

雑誌に視線を向けたまま、片手をひらひらと振った。物凄く適当だ。その応援は、酷いと思う。

「不破先輩がんばってくださいね!」
「あ、うん! ありがとう!」

なので、私が代わりに応援の声をかけてあげると、途端に不破先輩は元気になった。
やっぱり、他人の応援は大切だよね!

「雷蔵だけ、ずっりぃ!」
「じゃあ、俺が応援してやる。がんばれ八左ヱ門!」
「兵助にされてもちっとも嬉しくねぇー!」
「それはいいから、引くよ!」

そう告げて、不破先輩は、竹谷先輩のカードを引いた。
その絵柄を見た途端、先輩の顔が明るいものに変わった。

「僕上がりー!」

ようやっと、勝負は付いたようだ。負けた竹谷先輩は、縦線を背負って落ち込んでいる。気の毒ではあるが勝負は勝負だ。
さて、敗者の竹谷先輩にどんな命令をしよう。
奢ってくださいっていうのは、さっき西瓜食べたからお腹いっぱいだし、肩揉んでくださいって言うのも、年寄り臭いって思われるかも。んー、いざとなると案外思いつかないもんだ。

自分が得になるようなことー……あ、そうだ、思いついた。

「竹谷先輩! 命令って逆らっちゃいけないんですよね?」

にぃこりと笑みを浮かべると、何を命令指されるのかという恐怖があったのだろうか、先輩の顔が引き攣った。そんな酷い命令しないのにな、多分。

「えーい! 覚悟は出来てる、早く言え!」
「はい、じゃあ、竹谷先輩の携帯番号教えてくーださいっ」
「―― へ?」
「だから、携帯番号です」

なんか思いっきりポカンとした表情を浮かべられた。
こっちから教えてもらうのは失礼だと思っていたので諦めていたのだが、この命令を使えば遠慮なく教えてもらえることにさっき気が付いたのだ。
しかし、一体どれだけ怖い命令をされると思っていたのだろう。ちょっと失礼だぞ。

「携帯、番号? 俺の?」

その問いに、大きく頷いた。すると、パアッと先輩の表情が明るくなった。
命令なのに、なんで喜ばれてるんだろう。先輩、実は、そういうの好きなんですか?

「ちょっと待てぃ!」

竹谷先輩が携帯を取り出したので、教えてもらおうと構えていたら、鉢屋先輩が割り込んできた。なんで?

「それは、罰ゲームじゃない!」
「? え、でも、私、竹谷先輩に強制的にお願いしましたよ?」
「だが、それは、罰じゃないだろ? 褒美だろ!?」
「はぁ」

褒美? なんで? 携帯番号だけを教えてもらうのは駄目だったのかな。

「じゃあ、携帯番号とメールアドレスも一緒に教えてください」
「そういう意味じゃない!」

ええー? どうすればいいんだ。

「まあ、三郎は置いといて、番号教えとくな。赤外線使える?」
「あ、はい、ちょっと待ってくださいね」

竹谷先輩に言われたので、慌てて受信できるように操作した。
ピッと音がして、情報が携帯に表示される。これで、竹谷先輩の連絡先ゲット!

喜んでいたら、先輩たちが何か不貞腐れてた。
理由が分からず、首を傾げてみる。

「八左ヱ門だけずるーい……こんなことなら、負けておけば良かったなぁ」
「じゃあ、二番目に勝った俺はどうなるんだ?」
「八左ヱ門、後で制裁してやる」

あ、矛先は私じゃなくて、竹谷先輩に向かってだった。
何故? 皆そんなに負けて命令されたかったのかな? そんな、負けたが勝ちみたいなルール、私は適用したくないんだけどなぁ。

「あ、そうだ。何かあったら、メールしていいですか?」
「むしろ、どんどんしてくれ!」
「良かった。これで、新学期まで会えなくても連絡が取れますね!」

そう告げると、その場にいる全員に驚いた顔をされた。
その動作にきょとんとした表情を浮かべたが、ふと気付いた疑問を口に出した。

「部活終わったんで新学期まで学校行きませんって、言ってませんでした?」

首を傾げて訊ねると、ブンブンと全員が首を横に振った。
あ、すみません。でも、そういうことなんで、よろしくお願いします。

「じゃあ、そうなると、残りの休みの間は、八左ヱ門だけしか連絡取れないんじゃないか?」

久々知先輩の発言に、不破先輩と鉢屋先輩がハッと顔を強張らせて竹谷先輩を睨みつけた。一方、竹谷先輩は、勝ち誇った顔でニカっと白い歯を見せて笑っている。

「うお! お前ら何するんだ!?」

すると、不破先輩が竹谷先輩を羽交い絞めにして、鉢屋先輩が、竹谷先輩の携帯電話を奪おうとしていた。

渡せ! 止めろ、放せ! 渡してもらうまで放さないよ! 
なんて言葉が真横で交わされているので、ちょっと騒がしい。

「そう言えばそうですね」

そんな彼らを無視して、私は、先ほどの久々知先輩の言葉に首を縦に振る。
でも、竹谷先輩に連絡すれば彼らの夏の行動は大体分かると思うし、ひと月もしない内に学校で会えるのだから、竹谷先輩の連絡先だけ知っておけば問題ないとは思う。

「だったら、俺のも教えておく」
「え、久々知先輩のも教えてもらえるんですか?」

竹谷先輩のが聞けただけでも十分だと思っていたのに、まさか向こうから親切に教えてくれるとは思わなかった。

「うん。大会終われば、部活もなくて暇な日もあるだろうし、の声聞きたいから」

私の声なんて聞いても、一銭の得にもなりませんよ。
私が心の中で突っ込んでいる間に、久々知先輩は、携帯電話を取り出した。
意外にも先輩の携帯は白だった。白好きなのだろうかと思いながら、携帯の番号を登録し終えた。

「ありがとうございます」

私がそう告げると、液晶画面を見ていた久々知先輩は、視線をこちらに向けて嬉しそうに笑った。
あ、まつげ長い。羨ましいなどと、私は場違いな感想を漏らしていた。

「「「へーいーすーけー?」」」

すると、3重の声が、横から聞こえてきた。
竹谷先輩と不破先輩、鉢屋先輩だ。じゃれ合いは、終わったようだ。

「何?」

ジト目で見てくる彼らに先輩は、先ほどの笑顔のまま首を傾げた。

「何じゃねーよ!」
「自分だけちゃっかり教えるなんて!」
「よし、! 私のも教えてやるから教えろ!」
「ちょっと、三郎までずるい! じゃあ、僕も!」

何故か、途中で矛先がこっちに向けられた。
二人が携帯を片手にこちらににじり寄ってきたので、あまりの迫力に驚いて数歩後退る。

先輩たち、怖い。なんで、そんなに必死で携帯番号を教えようとするんだ。
いや、教えてくれる事は嬉しいけど、その顔をどうにかしてくれ! 怖いから!
ファンの子に見せられないような顔になってるぞ!

「あ、ええと、一人ずつ、お願いします」

営業スマイルを浮かべてそう告げると、スチャッと素早く縦列を作った。
先輩たちって、本当に息が合ってますね。

でも、言葉通りにしてもらったので、ここは素直に交換しよう。そうしよう。


結局、先輩たち全員の連絡先を手に入れてしまった。
先輩たちは物凄く嬉しそうにしているので、これはこれで良かったのだと思うことにした。


(……これじゃあ、罰ゲームの意味がなかったんじゃ?)

ふと、そのことに気付いただったが、今の先輩たちに水を差す気力はなかった。





連絡先教え合いっこ完了!
081016