縁に連るれば
「ん?」
部屋でゴロゴロ過ごしていたら、携帯がメール受信の音を発した。
雑誌から顔を離して携帯を手に取り、蓋を開けてディスプレイに視線を向けた。
「あ、月子だ」
中学時代の女友達からのメールだった。お互いに色々と忙しくてしていたから、彼女の名前を見るのも久しぶりかもしれない。
一体何の用事だろうと、ボタンを押して内容を見た。
『いま、暇? 暇なら、遊ばない?』
実に簡潔な内容だった。だが、分かりやすい。
「急だなぁ……んー『確かに暇だけど、何処で遊ぶの?』送信完了っと」
呟きながらメールの内容を打ち、送信する。
すると、数分後に直ぐに返事がきた。
『駅前に新しく出来たボーリング場で、ボーリングよ。優勝者には、みんなからアイスが贈呈されまーす♪』
「よし、いく!」
賞品があると思うと俄然、燃えるタイプだ。
は、早速、返答して立ち上がった。
目指すは、駅前だ。
◇
「、久しぶりだな!」
「ひさしぶりー、アンタまた背が伸びたね」
「こいつはね、背だけ伸びてるのよ。頭は相変わらず」
「お前、それ酷くねぇか!?」
懐かしい面子が揃っている。
軽く同窓会の気分だ。来て良かったなとは心の中で感想述べた。
「受付も済ませたし、早速、ボーリングと行きましょうか!」
月子が言葉を発したので、も頷いた。
レーンのお隣さんは既に誰かが使っているみたいだ。楽しそうに球を投げている。大人の団体のようだったので、失礼しますと私たちが声をかけると、どうぞ、とそのうちの一人が笑顔で応対してくれた。隣にいた別の友人が、カッコいいねと小さく囁いてきたので曖昧な笑みで頷いておいた。
「では、早速、始めましょうか」
それを合図に、アイスをかけた戦いが始まった。
ただし、燃えてるのは、たぶんだけだ。
◇
ゲームも中盤に差し掛かった頃、喉が渇いたと誰かが呟いたのを切欠に、ジュースを買いに行く事になった。けど、みんな面倒くさがったのでジャンケンで買う人を決めることになった。
「うわー、負けた」
皆がパーを出した中で、自分だけグーを出していた。示し合わされたようで物凄く悔しい。けれども、言い訳しても仕方ないので、みんなから代金を徴収し注文内容を聞いて、席を立った。自販機は、奥の方にあったはずだ。
記憶どおりにそこに自販機は存在していた。皆から注文された種類の飲み物を買っていく。
3つ目を購入したところで、ハタと気が付いた。
「これ、全部持てるのかな?」
ペットボトルなので、逆さにしても零れる心配はない。腕に抱えて持っていけば持てないこともないだろう。服が濡れるのは嫌だけど、その内乾くだろうから、暫くの我慢だ。
「あれ? 君……」
試行錯誤しながら最後の一本を取り出していると、行き成り声を掛けられた。なので、顔をそちらへ向けたのだが、視界に映った人物は知らない人だった。でも、先ほどの口ぶりからすると向こうはこちらを知っているようだ。
どこかで会ったことあったっけ?
首を傾げていると、私の困惑に気付いたのか相手が微苦笑を浮かべた。
「あ、ごめん。隣のレーンでボーリングしている人だよね?」
「……あ」
言われて気づいた。プレイ中は、あんまり隣に集中していないから気づかなかったけれども、挨拶した時にこんな人がいたような気がする。
「大変そうだから、持ってあげるよ」
「へ? え、いえ、大丈夫です!」
自分の腕の中の飲み物に気付いたらしい相手が手を差し伸べてきたが、首を横に振って断った。
「ああ、大丈夫。変な意味じゃないから! ほら、どうせ行く場所は同じだから、持ってあげた方がいいかなって思っただけだよ」
「ええと、じゃあ、半分だけ、お願いします」
邪気のない笑顔で言われてしまったので、素直に従う事にした。
とりあえず、盗もうという気もないようだ。盗まれたら、隣のレーンに殴りこみに行ってやろう。
私が渡すと、相手は嬉しそうに笑みを浮かべて肩を並べた。
そんなに距離は長くないけど、知らない男の人と歩くのは、緊張する。そのせいか、上手い話題が出てこない。余計に沈黙することになってしまった。
しかし、相手は全くそれを不快に感じていないようで、むしろ、楽しそうにしている。
会話がなくても気にならない人なのかもしれない。それはそれで助かった。
「、お帰り」
「ただいま、はい、これ、頼まれたコーラ」
「サンキュー」
一先ず手にしていたペットボトルを、目の前の友人に手渡した。
「これ、ここに置いておくね」
「あ、すみません。ありがとうございました」
テーブルに残りの3本を置いた彼にお礼の言葉を述べる。
すると、相手は、また笑みを浮かべた。
「ちょっと、いつの間に逆ナンなんてしたのよ!」
「へ?」
わき腹をつつかれて、そう突っ込まれた。思わず、ポカンとした表情を浮かべたが、言われた言葉に慌てて首を横に振った。
「してない、してない」
「お前が逆ナン? 明日、雨が降るぞ」
「だから、してないっつーの!」
二人で攻撃してくるので、思わず大声で突っ込んでしまった。
すると、背後からくすくすと笑い声が聞こえたので首をそちらに向けると、先ほどの男性がまだそこにいた。
「声をかけたのはこっちだから、彼女は悪くないよ」
「ほらみろー」
彼の言葉に、私は二人に得意顔でそう告げる。
けど、二人は吃驚した顔をしていた。なぜですか?
「網問! お前、何やってんだー?」
「え、あ、ごめーん。直ぐ戻る。それじゃあね」
その人は、連れに呼ばれて戻っていった。
アトイ、というのか。変わった名前だ。
「……アンタ、相変わらず、無意識に引っ掛けてくるのね」
「ちゃんの吸引力って凄いよね」
「それは、本気で尊敬する」
「いや、お前、それは尊敬するな。どっちかっていうと、釣られた男が可哀想だろ」
それぞれから同情めいた台詞をいただいてしまった。
いったい、なんなんだ?
私は、頭の中で疑問符ばっかりが飛び交っていた。