縁は異なもの
(ちゃんって言うんだ)
先ほど別の子が呼んでいた名前を、頭の中で呟いた。
網問は、ナンパをするつもりはなかった。ただ、自販機の前で何やら考え込んでいる子が、隣のレーンで遊んでいる高校生と思われる団体の中で見たことのある姿と同じだったから、声をかけたのだ。
ジュースを持ってあげたのもただの親切心。会話らしい会話も交わしていない。ただ、並んで歩いただけだ。
きっと、一期一会の出会いとなることだろう。
(でも、いいなぁ。お頭、うちにも女の子入れてくれないかなぁ)
「網問、その笑い、気持ち悪い」
「えー、酷いよ、重!」
「それよりも、隣のレーンで何やってたんだ?」
「うん? トイレの帰りに自販機のところで隣の子に出会っちゃって、その子が腕にペットボトル抱えてて大変そうだったから、持つの手伝ってあげたんだ」
そう告げる網問に、重は何とも言えないような表情を浮かべた。
その表情の意味を問うように首を傾げる。
「それ、取り様に寄っちゃ、ナンパだぞ?」
「うん、自分でもそう思ったけど、別に連絡先を聞いたわけじゃないし、いいでしょ?」
「まあ、ヨシ兄と違って、お前がそんな事するとは思えないけど」
「お前ら、思いっきり聞こえてるぞ」
すると、背後で声が聞こえた。義丸だ。
「ヨシ兄、盗み聞きは犯罪!」
「盗み聞かなくても、丸聞こえだ」
義丸は、網問のむくれた表情を見て呆れた表情を浮かべた。
けど、直ぐに手を顎に添えてナンパかと呟きながら考え込んだ。
「ヨシ兄、ナンパしようとか考えちゃ駄目だよ! 相手は高校生なんだから!」
網問の言葉に、義丸は今度こそ本気で呆れた。
「とりあえず、次、お前の番だろう。航が待ちくたびれてるぞ?」
「あ、本当だ。航、ごめーん!」
そう告げながら、網問は輪の中に戻っていった。
「ヨシ兄、本当はナンパしようと思ってたでしょう?」
重は半眼しながら、義丸に言葉を投げた。
網問を騙せても、重には彼の下心などお見通しだ。
「……まあ、否定はしない。けど、連れに男がいるみたいだったからなぁ」
残念そうに告げる彼に、重は大きくため息を吐いた。