今はまだ、


「今度こそ終わったぞ!」

三郎は、開いていたテキストを閉じると勢いよく立ち上がった。向かう場所は、もちろんのところだ。しかし、兵助が人差し指を唇に押し当てて、シッと告げた。その動作に疑問に思いながら、静かにそちらへ向かった。

「……眠ってる」

クッションに顔を埋めて気持ち良さそうに眠っている彼女の姿があった。遊び疲れて眠るなんて、本当に子どもっぽい人間だ。けれども、こうして目を瞑って眠っていると女の子らしさが一層際立って見え、三郎の心臓を少し早くさせた。
それを誤魔化すように膝を着いて軽く彼女の頭を撫でた。

「俺、掛けるもの取ってくる」

そう言えば、今日の彼女はスカート姿だった。このままでは、視覚的に宜しくない事になる。立ち上がって部屋に消えた兵助を見送って、三郎は、彼女の観察を続けた。
普通は、眠っている相手の観察をしても、ただ眠っているだけだと言う感想しか漏れないだろう。けれども、対象が彼女だからだろうか不思議と飽きたと言う言葉が出てこなかった。

「あんまりジロジロ見るなよ」

すると、傍にいた雷蔵がちょっと不満そうな顔をして告げた。彼としては、他の男にジロジロ見つめられているのは不快なのだろう。そんな様子に、ちょっと雷蔵をからかってやろうと三郎は口を開いた。

「雷蔵は、に好きだって言ってもらえたんだから、私も少しくらい良い思いしてもいいだろう?」
「ばっ! ……馬鹿っ、彼女は、そういう意味でいってくれたわけじゃないよ」

大声を出しそうになって慌てて小声に切り替えて告げたが、顔が赤けりゃ何の説得力もない。
けれども、そんな様子の雷蔵を見ただけで、本気で彼女の事が好きなのだなと思った。これで、もしも私も本気なのだと気付かれたらどうなるのだろうか。そんな、あまり考えたくない事が思考に浮かんだ。

兵助や八左ヱ門の態度は、妹扱いな所があるので、まだ本気というレベルには達していないようだ。無自覚という事もあるのだが、もしも、あいつらまで本気になったら全員ライバルという事になってしまう。
友人だからと互いに手加減するような間柄でもないので、その点は問題ないが、傍から見れば随分とアホらしい構図に見えることだろう。

だからと言って、止めるつもりもない。止まるわけもない。


「さぶろー、らいぞー、お前ら終わったんなら、俺の手伝ってくれよ〜」

情けない声が聞こえて、三郎は思考を止めた。
顔をあげると情けない表情の八左ヱ門の姿が視界に映って、呆れた表情を浮かべた。
そして、雷蔵に視線を向けると、こちらも仕方ないなぁと言う表情を浮かべていた。

「分かった分かった」

三郎は、微苦笑を浮かべたまま立ち上がった。






090414