作戦会議乱入者あり!


「先輩、本当にすみません」

着いた早々に謝った。けど、食満先輩たちから頼むから頭を上げてくれと必死に言われたので仕方なく顔を上げた。

「で、そいつが連れか?」
「斉藤タカ丸でーす。18歳だけど高一だよ」

笑みを浮かべて告げるタカ丸に対して食満先輩の眉間には皺が寄ったままだ。隣では善法寺先輩が苦い笑みを浮かべている。

これが普通の反応なのだろう。タカ丸は、妙に人を怒らせるの上手い。けれども、その笑顔のせいか怒るに怒れない人も多い。結果、最終的には怒られない。こういうのを世渡り上手っていうのかな。

「とりあえず、最終確認だけしちゃいましょう! 来週からはお互いに忙しくて会うのも無理そうなんで」

私は、この雰囲気を出来るだけ拡散させる為に笑顔を浮かべて言葉を発した。
すると、先輩たちも当初の目的を思い出してくれたようで表情を真剣なものに変えた。そして、鞄の中から紙を数枚取り出した。

「当日の予定表は、こんな感じだから……」
「やっぱり、昼食時間と後夜祭が狙い目だな」
「問題は、どうやって呼び出すかですねぇ」

あまりにもあからさまだと怪しまれる。確実に来て貰えるような方法がまだ決まっていなかった。

「ねぇ、ちゃん。何の話?」

三人で紙を睨み合いしていたら、事の状況に置いてけぼりを食らっているタカ丸が少し不服そうな表情を浮かべて尋ねてきたので、私は顔を上げた。

「あ、ごめんごめん。んと、恋のキューピッド大作戦?」
「え?」

私がそう告げると、タカ丸がきょとんとした表情を浮かべた。
もしかして、もっと重要な会話でもしていると思われたのだろうか。

「だから、恋のキューピッド大作戦」
「うん、それは聞こえたけど……誰と誰の?」
「えーっと、とある女子ととある男子」
「……さん、それじゃあ全く説明になってないよ?」

善法寺先輩の苦い笑みに私は首を傾げた。
プライバシーを守る為に匿名にしたつもりだったのだが、それでは通じなかったのだろうか。

「んー、つまり、誰かの恋を応援してるってこと?」
「うん、そう。中等部の子に頼まれちゃって、私だけじゃ無理だから先輩に協力してもらってるってこと」
「あ、なんだ、そういうことだったのか」

私がちゃんと説明すると、タカ丸は心底安心したような表情を浮かべた。
一体、彼の中では、私らはどんな会議をしていたと思われていたのだろうか。

「だったら、僕も協力するよ!」

にっこにこ。そんな効果音が付きそうなほど嬉しそうな笑みを浮かべてタカ丸が告げた。協力してくれるのは嬉しいけど、あまりの変わりように怪訝な表情を浮かべた。

「僕はこうした方が良いと思うんだ。あからさまだと怪しまれちゃうし……」

けれども、タカ丸は構わず先ほどのメモに視線を向けて、あーだこーだと意見を言い始めた。
しかも、その内容が本当に良くできた計画で文句の言葉が出なかった。先輩たちも異論がないみたいでタカ丸の言葉に小さく頷いて同意していた。

こうなれば、タカ丸も共犯にしてしまうほうが早いかもしれない。そう思った私は、ため息を吐いた後、会話の輪に混ざった。





「意見が纏まって良かったねぇ」

家が近いと言う事でタカ丸に送ってもらうことになった。その帰り道でも、やはりニコニコと上機嫌に笑うタカ丸がそう告げた。

「……ありがとう」
「へ?」
「早くに計画がまとまったのもタカ丸のおかげだし」
「え、そんなことないよ!」

私が素直にそう告げると、タカ丸の頬が仄かに染まる。否定の言葉を述べているけれども、照れくささから来るものなのだろう。
先ほどの我儘っ子モードとは大違いだと思うと、自然と笑みが漏れた。

「仕方ないから、二人三脚も頑張って付き合ってあげるよ」
「え?」
「優勝! とまでは行かないだろうけど、頑張ろうね」
「う、うん!」

私の言葉に、タカ丸は本当に嬉しそうに笑みを浮かべた。

「じゃあ、帰りますかー」
「あ、ちょっとまって!」
「ん?」

何か忘れごとでもあっただろうかと呼び止められた声に振り返った。すると、タカ丸が私の手首を掴んだ。

「寄り道していこう?」
「え」

聞き返す間も無くタカ丸は私の手を引っ張って、帰り道から逸れていく。



「ここで合ってる?」

何処に行くのだろうかと思っていると、タカ丸が前方を指差したので顔を上げた。そこにあったのは、私がいつか買って帰ろうと思っていた限定モンブランが売っているお店だった。驚いてタカ丸を見遣ると、花乃子ちゃんから聞いたんだよという答えが返ってきた。

これは反則だ。不覚にもキュンと来てしまったではないか。
さすがカリスマ美容師の息子だ。女心を良く分かっている。


「ほらほら、早くしないと売り切れちゃうよ!」

そう告げて引っ張っていくので私は笑みを浮かべて彼についていった。



「ありがとうございましたー」

店員さんの柔らかな声を背景に、私たちは店を後にした。手には戦利品のモンブランの入った箱がある。

「まだあって良かったね」
「うん!」

目的のものが手に入ったのだから、嬉しさも底知れない。その気持ちが顔に表れていたのだろう。タカ丸も頬を染めて嬉しそうに笑っていた。

「幸せすぎて後が怖いなぁ」
ちゃん、それは大げさすぎるよ」
「そうかな?」

恋愛大作戦の計画も順調に立ったし、ケーキだって手に入れられたし。上手い事ばかり行き過ぎている気がする。

「でも、幸せすぎると夢じゃないかなって思うのは分かるかも」
「頬抓ってみる?」

そう告げると、痛いのは嫌だよぉと微苦笑された。
確かに私も痛いのは嫌だから、実行するのはやめておくことにした。




[体育祭準備編ED]
101203