図書館にいると、不思議と落ち着くことが出来る。
この少し印刷臭い空気と紙をめくる音だけが響く静かな空間は、私にとっての癒しなのかもしれない。
しかも、学内図書館は専門書から文学小説まで様々な種類の本が揃っているので、本好きの私としては、本当にここはオアシスだ。
だから、今日も日頃の疲れを癒す為に、新刊コーナーに何かいいものが入ってきていないかと訪れたのだが――
「さん?」
先客が居た。顔が強張りそうになるのを何とか押し留めて笑顔を貼り付けた。
「不破先輩、こんにちは」
「久しぶりだね」
私の挨拶に、不破先輩は穏やかな笑みを浮かべてそう告げた。
「はい、お久しぶりです……先輩は、お一人ですか?」
さり気なく尋ねてみた。鉢屋先輩が図書館に居る姿はあまり見かけないが、それでも、不破先輩の傍には良く彼が居るので、もしも居るなら会う前に早々に逃げなくてはならなかった。
「うん、調べものがあったから、今日は一人だよ」
「そうですか」
内心ホッと安堵の息を吐いた。そして、さり気なく話題を切る為に、棚を見上げて本を探しにかかった。
いつもだったら、ワクワクしながら背表紙のタイトルを目で追っていくのに、先輩が隣に居るのかと思うと、今日は何にも頭に入ってこない。
「そういえば、最近、忙しいの?」
「え?」
けれども、私の思惑を無視して先輩は話題を振ってきたので、私は棚から視線を外して横に居る先輩に向けた。
「最近、全く会わないしランチもご無沙汰だから、忙しいのかなって思って」
「は、はい。ちょっと、レポートが、重なってしまって……」
咄嗟に付いた嘘だった。確かにレポート課題はあったが、そこまで忙しいものではない。
けれども、鉢屋先輩の彼女さんから嫉妬されて困っているから、仕方なく落ち着くまでは、先輩たちに会わないように逃げているなどと言える筈がない。
私のそんな心境を知らずに、不破先輩は微苦笑を浮かべた。
「僕も去年は色々大変だったもんなぁ……何か分からない事があったら、聞いてね。力になるから」
「あ、ありがとうございます。私、友達を待たせてるので、失礼しますね」
「あ、引き止めてゴメンね」
「いいえ」
これ以上は、先輩の優しさを受け止めていられなかった。
新刊を探す目的も忘れて、私は、逃げるようにその場を去った。
気まずさを隠すための嘘