その後、戻ってきた先輩に、やっぱりこれも履いてと紐付きの半ズボンを渡された。
少し遅いなと思っていたけど、これを探しに部屋まで戻っていたのだろうか。
私はお礼を告げて、それを履いた。半ズボンなのに七分みたいになってしまった。まぁいっかと思っていると、小平太先輩が折角の保養がぁと呟いて長次先輩に軽く小突かれていた。
「そう言えば、長次。何でちゃんを連れて来たの?」
「……フラフラしてたから捕まえた」
「それだと誘拐したみたいに聞こえるよ」
長次先輩の答えに伊作先輩が苦い笑いを浮かべた。
私は、そんなにフラフラしてたんだろうか。いや、確かに宛てもなく歩いていたのだから周りからはそう見えていたのかもしれない。
一口コーヒーを飲んだ。砂糖とミルクの甘さが心を少しだけ温かくしてくれたような気がする。
同時に靄のかかった思考も少し晴れた。
よく考えれば、私は何を嫉妬していたのだろうか。
先輩が縒りを戻しても、それは先輩の自由だ。たとえ相手が私と気の合わない人であろうとも縒りを戻したがっていた目的が体の相性であろうと、私には関係ないのだ。
けど、なぜか嫌だった。
先輩が騙されているという事に? 先輩に真実を告げる事のできない自分に?
たぶん、どちらもだ。先輩が悲しい思いをするのは嫌だ。けど、真実を告げて先輩に嫌われたくもない。物凄く矛盾している。けど、竹谷先輩は、やっぱり大切な人だ。幸せでいてもらいたいと思うのは、後輩として当然の感情ではないのだろうか。
けど、今でも仲良しと言えるのだろうか。あの日、私は先輩を怒らせるようなことをしてしまったらしい。その原因は分からないけど、連絡がないという事はそういうことなのだ。
一体、どうすればいいのだろうか。
だめだ。また思考が混乱して何にも分からなくなってしまった。
「ちゃん、大丈夫?」
「え?」
顔を上げると三人がこちらを見ていた。
もしかして、ずっと見られていたのだろうか。ばつが悪くなって微苦笑を浮かべた。
「悩み事があるなら相談に乗るよ?」
あまりにも優しい言葉に全てをぶちまけてしまおうかと思ったが、踏み止まった。
最低だって思われるかもしれない。だから、言えなかった。でも、なんでもないと告げるほうが返って逆効果になってしまうような気がしたので、以前から少しだけ気になっていたことでも聞いておこう。
「……あの、付き合うのに体の相性って、そんなに大事なんでしょうか?」
付き合うって、なんだろう。最終的に体目的なのだろうか。それで満足してしまうものなのだろうか。理解したくない。傍にいられたら、それでいいじゃない。それじゃあ駄目なのだろうか。
「――――え?」
場の空気が固まった。そこで私はあまりにもど真ん中な質問をしたことに気付いて顔が赤く染まった。
「あ、す、すみません。い、今のは聞かなかったことに、」
「ちゃん、誰かにそう言われたの!?」
「え、いえ、その」
「私、その男ぶん殴ってくるから教えて!!」
「ち、違います! と、友達の話なんです!」
小平太先輩がそう告げたので、慌てて言い訳の言葉を告げた。
誰かに言われた訳でもないし、ただちょっと疑問に思っただけだ。だから、友達の話ってことにしておいたほうが無難かもしれない。
「そっかぁ。なんだ、友達か。吃驚したなー」
「す、すみません」
「けど、体の相性なぁ……そういうのって、一回やってみないとわから」
「小平太!」
「何?」
伊作先輩が大声で怒鳴ったけど、先輩は分かってないみたいで首を傾げた。
それに、盛大にため息を吐いて伊作先輩はこちらに線を向けて微苦笑を浮かべた。
「ごめん、さっきの忘れてあげて」
「え、あ、はい」
「……で、さっきの話だけど、そういうのって後々の話だと思うんだよね」
「それだけが全てではない」
「そう、長次の言う通りだよ。僕も、そう思う。だって、それだとまるで初めから体が目当てみたいで愛って感じじゃないよね」
その言葉に安堵した。そう考えていたのは、自分だけじゃなかった。
「でも……男の人って、抱けるなら誰でもいいんじゃないんですか?」
「……ちゃん、男をなんだと思ってるのさ」
「え、あっ、すみません!」
はぁと盛大にため息を吐いた伊作先輩に、物凄く失礼な発言をしたことに気づいて慌てて頭を下げた。
「確かに子孫を残す為の本能だから、そういう人もいるかもしれない。けど、全ての人が全てそうってわけじゃないよ。好きな人じゃないと抱けないって思う人もいるんだからね?」
「伊作先輩は、そうなんですか?」
「――えっ!?」
素朴な疑問だったので尋ねただけなのだが、思いきり顔を赤くされてしまった。
またもや失礼な発言をしてしまったようだ。
「はい! 私はちゃんには欲情するぞ!」
「ぶはっ、ちょ、小平太、何爆弾発言してるの!?」
「えー、素直な感想なのになぁ」
「……帰っていいですか?」
冗談だとしても笑えなかった。思わず小平太先輩から距離をとって長次先輩の傍に寄った。すると、小平太先輩が頬を膨らませてこっちを見た。
「ちゃん! なんで距離を空けるんだぁ!?」
「ちゃんが引くのも当然だろ!! 小平太はもうちょっと空気読んでから発言しろ!」
「空気は読むもんじゃない、吸うもんだ!」
「……屁理屈」
突然、三人の言い合いが始まった。
私は、コーヒーを飲んで話題から無理やり外れた。
(こういう相談は、立花先輩辺りにすればよかったかなぁ……)
人選を間違えた事に気付いても、既に遅し。
理想的理論討論
この三人では程遠い事が分かった。
090606
段々、お題と無関係になってきたような……