「留三郎お帰り〜」
「ただいま。これ、土産な」
みんなの集まっている居間に食満先輩と一緒に戻ると、彼の存在に気付いた伊作先輩が挨拶の言葉を告げた。それに返答しながら食満先輩は、手にしていた紙袋を机の上に置いた。すると、それにみんなが群がって中身を物色し始めた。お菓子や食材がたくさん出てくる。
「旅行にでも行ってたんですか?」
そう言えば、先輩の肩には大きな旅行バックが掛けられていた。
「ああ、バイトの連中と北海道まで行ってきた」
「いいですねぇ」
私も友達を誘って旅行に行けば良かった。冬休み誘ってみようかな。
その前にバイトしてお金溜めなきゃいけないからバイト探さなきゃ。
「そうだ、これやる」
食満先輩は何かを思い出したように鞄から取り出した。
小さな紙袋に入ったそれを受け取った。なんだろうと首を傾げながら、袋を開けて中身を取り出した。
「携帯ストラップ?」
紐の色の組み合わせが和風っぽい感じになっている。
小さな貝殻が先についていて可愛らしい。
「あぁ、作ったはいいけど、俺使わねぇし」
「え、手作りなんですか?」
お店に売ってても何の違和感もない位の出来だ。
食満先輩って、本当に手が器用なんだなぁ。凄い。
「いらなかったら他のやつにでもやってくれ」
「いえ! 是非とも使わせてもらいます!」
他の子にあげるなんて勿体無い。というか、そんな事するのは、かなり失礼だ。
なので、早速手にしていた携帯電話に取り付けた。
携帯電話の色合いとマッチしてて可愛い。
「ありがとうございます」
ストラップのついた携帯電話を見せながら笑みを浮かべて告げると、食満先輩は嬉しそうに微笑んだ。
「モノで釣るとは小賢しいぞ、留三郎」
「うわっ、な、なんだよ、別にモノで釣ってねぇ!」
不機嫌な顔で仙蔵先輩がそう告げた。
お土産を漁っていた先輩たちの視線がいつの間にかこちらに集中している事に気付いて、何となく気恥ずかしくなってきた。
「留三郎ずっるい!」
「ふん、そんなもん別に凄くもねぇだろうが」
「あぁ? 文次郎、貴様今なんていった!」
また、始まった。というか、何故仲が悪いのにこの二人は下宿先を同じところにしているのだろうか。本当は仲がいいんじゃないかな。
「ちょっと悔しいけど、留三郎には感謝かな」
「え?」
「ううん、こっちの話」
呟くように告げた伊作先輩の言葉に首を傾げたが、先輩には微苦笑を浮かべて誤魔化された。けど、詳しく聞こうとも思わなかったので、あえて追求はしなかった。
「」
「え? あ、はい」
ボソリと小さな声で名前を呼ばれて、何とかそれに気付けた私は、顔を長次先輩へと向けた。
「後期は、概論系も取るか?」
「はい、もちろん」
元図書委員としても司書に関する授業は外せない単位だ。
なので、既に取るつもりでいる。
「だったら、資料やる。持って帰れ」
「え! いいんですか!」
やった。長次先輩のなら確実に分かりやすいものを集めているはずだ。
これで後期の単位は取れたも同然に違いない。
「あーっ! 長次もモノで釣って卑怯だぞ!」
ずしりと背中に重みを感じたと思ったら、大きな声が鼓膜を震わせた。
こんなことをするのは小平太先輩しかいない。
「……釣っていない。親切心だ」
「でも、ずるい! ずーるーい!」
ジタバタと動かれるので、尚更に重い。このまま倒れていいだろうか。いや、板に顔を打つのは痛いからやりたくはない。でも、これが続くと否応なく倒れそうだ。
「小平太、離れて上げなよ。ちゃんが辛そう」
「え? あ、ごめん!」
パッと離れてくれた。良かった。
毎回こんな思いをするなら、先輩に抱きつき禁止命令を発令してしまいたい。いや、過去にもやった事あるんだけど、あの時は目の前で広げた両手をプルプルさせて我慢した挙句ものすっごい悲しげな目で見つめてくるから、耐え切れなくて禁止令解除しちゃったんだよね。たぶん、今、発令しても同じような事になりかねない。向こうが悪いのになんで、こっちが罪悪感に苛まれなきゃいけないのだろうか。
「……ちゃん、立ったままじゃ疲れるでしょ。座りなよ。コーヒー入れ直してあげるし」
「あ、いえ、お構いなく」
促されて、私はさっき座っていた席に腰をかけた。
氷が解けて薄くなった中身を取り替えてくれるらしいが、気を使わせてるような気がして申し訳なかった。だって、客とはいえ御呼ばれしたわけでなく唐突に訪れたわけだし、何よりもこっちは後輩なのだ。
「今更、遠慮なんて禁物だよ。みんなも喜んでるんだし、寛いでほしいな」
先輩たち、喜んでるんですか。いつもと同じような気がする。
けど、この六人全員と顔を合わせるのは久しぶりの事だ。そう思うと物凄く貴重な一時のような気がしてきた。
「えっと、じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」
私が笑みを浮かべて告げると、伊作先輩も嬉しそうに笑みを浮かべた。
全てを忘れさせる風が吹く
090827
そろそろお題にあわせるのがきつくなってきたので、自作も混ぜます