数分後。
体育館には総勢350人がマネージャー希望として集まった。
その様子を壇上の上から跡部は満足そうに壇上から見つめている。
「予想以上の人間が集まったな。なぁ・・・樺地?」
「ウス」
「跡部!!」
舞台の裾にいた跡部の元に忍足達が駆け寄ってきた。
「よぉ・・・きやがったな、クズども。」
「誰がクズだ!!」
思わず反射的につっこんでしまうのは性なのだろうか、宍戸よ・・・。
「そうですよ、跡部部長!!宍戸さんをくずなんてひどすぎますよ!宍戸さんはクズなんかじゃないです!そりゃ忍足さんとか、向日さんとかは・・・」
「バカ鳳、どさくさに紛れてなにいってんだよ!」
・・・皆、それぞれに混乱しているようです。
「・・・で?跡部、いきなりどういうことやねん・・。マネージャーって。」
そんななか、忍足だけが冷静に跡部に尋ねていた。
「あぁ・・・。今朝監督とも話してな。最近、マネージャーがほしいという意見が多くてな。だから俺様直々にマネージャーを選んでやろうと思ったんだよ。」
「それでこの騒ぎかい・・・。で、どうやって選ぶんや??」
「ふっ・・・任せろよ。もってこい、樺地。」
「ウス」
そういうと樺地が大きな白い箱を持って歩いてきた。それはくじ引き箱らしく中には紙がはいっている。
「くじびき・・・・?」
「ただのくじびきじゃねぇ。ここの中に入っているのはすべて入手困難な品ばかりが書かれている紙だ。このくじびきをひいて、書かれた品物を見つけ出しその品物をもってきたやつらをマネージャとするのさ。」
「でもさぁ、跡部・・・?」
岳人が声をかける。
「それでも6人以上いたらどうするんだよ。」
「・・・ま、そしたら第2ラウンドかな・・」
ざわざわとうるさい体育館の中、げんなりとした顔で神月 聖は壇上を見つめていた。
(何で俺が・・・・)
元々、聖はマネージャーになる気なんてさらさらなかったのだ。
だいたい、そんな暇があったらバイトをした方がマシだ、という考えを持っていた。
ではなぜ彼がこの場にいるか。
答えは簡単だ。
友達数名に『お前も少しは跡部様の美貌に酔え』とかいう理由でここまで強制連行されたのだ。
「何だよ跡部様って・・・」
何度目か分からないため息を聖がふっと吐いたとき体育館の電気が壇上以外ぱっと消えた。
「きゃぁあああ!!跡部様〜〜!!」
・・・壇上にただ一人だけ現れた跡部にそこら中から黄色い声が飛び交う。
・・・アイドルのコンサートかよ(汗)
「てめぇら、待たせたな!!」
跡部が壇上でマイクを握るとよけいに悲鳴が大きくなった。しかし跡部が指をパチン、とならすと一斉に歓声は消え、体育館内は水を打った静けさになる。
(・・・毎度ながらこの変化はすげぇよな)
「先ほども言ったとおり、今日は我が氷帝学園男子テニス部のマネージャーを募集しようと思っている。人数はレギュラー専用が1人、他の部員達のが5人だ」
そこまで言ったとき回りの女子の目が光ったのを聖は見逃さなかった。
「ちなみに選出方法は・・・樺地、もってこい」
「ウス」
樺地が舞台脇から例の白い箱を持ってくる。
「この中からくじを一枚引いてもらう。そこに書いてあるものを日暮までに俺様の前までもってきた奴にマネージャーの称号を与える。じゃあそろそろ始めるとするか・・。全員、箱の前に1列になれ」
くじが次から次へと引かれていき、そして引いた者たちが絶望的な顔をしている中、宍戸は列の中にクラスでもよく喋る人物を見つけて舞台から飛び降りた。
「・・・神月!!」
「よぉ・・宍戸。」
こっちに向かって走ってくる友人に聖は軽く手を振る。
「お前、マネージャーなんてやりてぇのかよ?」
めちゃくちゃ意外そうに見つめてくる宍戸に聖は心の中で苦笑いをした。
「まぁ・・俺にもつきあいってもんがあるんだよ。」
「そっか。やるからにはがんばれよな!!それにもしお前がマネージャーになったら嬉しいしな」
そういって子どものように無邪気笑う宍戸を見て不覚にも聖が頬を赤らめる。
すると同時に壇上で皆のくじ引きをみていた跡部とその様子を見ていたレギュラー陣の目がキラン、と光った。
「・・まぁ、やるからには手を抜くつもりねぇし・・・」
聖がそこまで言い終わるとマイクのスイッチが再び入る。
何事かと全員が顔を上げると・・
「宍戸!お前はこっちだ!!とっとと帰ってこい!」
という跡部の怒鳴り声が響き渡った。それと同時に忍足と向日がこちらに向かってかなりのスピードで走ってきて宍戸の肩を掴む。
「宍戸、跡部が呼んでるからいくぞ!」
「お・・・おう。じゃあ、神月!がんばれよな!」
「・・・サ・・・サンキュ・・・」
この時点で聖のやる気が半減したことは秘密にしておいた方がいいだろう。
「青学のレギュラージャージ・・・?」
ほぼ最後にくじをひいた聖のくじにはきれいな整った字でそれだけが書いてあった。
(・・・これって、きっと、余り物には福がある。ってやつだよな・・)
はじめの方にくじを引いていた女徒達が『え・・・?イリオモテヤマネコって・・・』とか口走っていた。
他のくじでもそれぞれ無理難題が書かれていたらしく早々に諦めてしまったもの、それでも探しに行くもの・・それぞれだった。
(青学レギュラージャージか・・・。確かに結構難しいよな・・・)
しかし、回りにはほとんど人がいない。ここでこうしていたってレギュラージャージが現れるわけでもなさそうだ。
「行くか・・・」
それだけ言うと聖は踵を返して歩き始めた。目指すは青春学園中等部だ。
「青学ーーーー!!ファイッオーー!!」
「青学ーーーー!!ファイッオーーー!!」
青春学園中等部男子テニス部。
一年生が必死に声出しをしている中、なにやらファイルを持って乾、手塚そして顧問の竜崎と熱心に打ち合わせをしている男子生徒がいた。彼の名前は神月真。神月聖の双子の兄である。
そして彼はここ、青春学園テニス部のマネージャーでもあった。
「そうだね・・。じゃあ明日から練習試合をするという方向で・・」
「はい、御願いします。」
「ちなみに負けた者には乾汁ということで・・・」
「またやるんですか?」
真が呆れたようにため息をつくと乾の眼鏡が光り真の肩を抱いた。
「なんなら、君が一番はじめにのんでみるかい?・・新作なんだ。」
乾のその手にはどす黒い赤色をした液体がジョッキに入っていた。
「・・・ち・・・ちなみに中には何が・・?」
真が顔を引きつらせながら何とか乾から逃れようとしている。
「聞きたい・・?」
んなやばいものが入ってるのか!?
その時・・・
「真。」
短い声が背後から聞こえてきた。
それにつられて他の3人も振り返るとそこには今、乾の腕の中でじたばたしているはずの「真」が氷帝の制服を着てたっていた。
「・・・双子か?」
手塚がぽつりと呟くと同時に真が乾の腕から逃げ出す。
「聖・・・!!なに・・どーしたんだよ?めずらしいな・・・」
そういって真が聖の隣に並ぶと本当にどっちがどっちだか分からないほど似ている。
せめてもの区別の判断は制服だけだろうか。
「あ・・・手塚部長。これ、俺の双子の弟で神月聖っていうんです。」
その紹介にいささか不満を覚えながらぺこりと頭を下げる聖。
「で?なんのようだよ。」
「あぁ・・ちょっと頼みがあって・・。青学のレギュラージャージをちょっとかしてほしいんだ」
ぱん、と手を合わせてくる双子の弟を見て真は思わず困惑した。
「レギュラージャージを・・?何に使うんだよ・・・」
「それが・・・実は・・・」
ため息をつくと同時に聖は今までのことを説明しだした。
「なるほど、氷帝はおもしろい方法でマネージャーを選び出すつもりなんだな」
乾がノートにさらさらとメモを取っている。
「理由は分かったけど・・お前、今までマネージャーになりたいなんて一言も言ってなかったじゃんか・・・。」
「・・・いやぁ・・まぁ・・成り行きで・・」
そういって頬を掻く聖。
「で、頼む!レギュラージャージ貸してくれ!」
「・・・どうしましょう?」
弟を一瞥してから真は竜崎に意見を求める。
「うむ・・・そうじゃのう・・」
「いいじゃないですか、竜崎先生。手塚あたりのレギュラージャージなんかもっていったらおもしろいと思うよ?」
乾がさらりとOKをだした。
「乾・・」
手塚が呆れたようにため息をつく。
「いいじゃないか、手塚・・どうせ誰も着ていないんだし・・今日中に返してもらえば・・」
乾がなだめるようにぽんぽんと手塚の肩を叩く。
「む・・・」
「ただし・・」
その瞬間、乾の眼鏡が光った。
「交換条件だ。跡部の弱点を教えてくれれば貸してやってもいい」
やはり乾だ・・・。
その瞬間、聖を除く全員が心からそう思ったのはいうまでもなかった。