The Blue Sky After The Heavy Rain
【3】
「人と違う能力が生まれつき備わっている『』の血の中でも、はかなり強い力を持っておった。『見る』『見分ける』以外にも『言葉』に力を込めることもできるのじゃ。−生まれつき、そんな力を持っていたは自分だけに見える『モノ』に怯えていた。本当はそんなとき、父親がいてくれればよかったじゃんだが・・・父親はその1年前に事故死していたんじゃ。その結果、はただ1人の肉親−母親にその『モノ』を見るたびに伝えたんじゃ。しかし、母親には『力』が一切無いため何も見えん。母親は内心ではをとても気味悪がっていた。そんなことが何回も続いたある日−母親はついに見てしまった。楽しそうに鼻歌を歌うのすぐそばに『ソレ』がいるのを。しかも、『ソレ』はの歌声に聞き入っていた。母親は思った。『この子は人間ではない。−化け物だ−』と。」
「・・・そんな・・・」
にそんな過去があることなんて知らなかった。
まだ出会ったばかりだけど、はいつも笑顔でいてくれた。
今日だって・・・俺の手を引いて・・・。
あの笑顔の下にそんな過去が隠れているなんて思いもしなかった。
「・・・あれは、がまだ3歳の頃だった。その日の夕焼けはまるで赤い血のように見えた。を崖に連れて行った母親は、息子の首を自らの手で絞め、そのまま−」
「っ・・・!」
ぎりっと拳に力が入る。
「何で・・・っ・・!」
「・・・もう限界だったんじゃろうな。嫌な予感がして、わしらが現場に着いた頃には、は崖の下でぐったりとしておったよ。そして・・・母親の姿は消えていた。」
じいさんはそういうとすっかりぬるくなってしまった茶を啜った。
俺は、その場から一歩も動くことが出来ない。
本当なら今すぐにでもこの部屋を飛び出して、のところへ行きたいっ。
「何で・・・俺に、この話を・・・」
顔を上げるとじいさんは俺を見て再び笑顔を見せる。
「お前さんなら不用意にこの話をして、を傷つけるようなヘマはしないじゃろう?それに・・・お前さんはに好意をもっているようだし、お前さんならを支えることが出来るんじゃないかと思ってな。」
そこまで聞くと俺は立ち上がり、そのまま急いで部屋を飛び出した。
めざす場所はがいる台所だ。
「!」
「・・・連?」
台所でばあちゃんと猫の世話をしていた俺はいきなり声をかけられ、慌てて後ろを振り向いた。
そこには肩で息をしている連が立っている。
「・・・」
連は早足で俺の前まで来ると俺をぎゅっと抱きしめた。
「・・・え?!」
一瞬、何が起こったか分からずきょとんとしていたが、すぐに状況に気がつき頬がかぁああっと熱くなる。
・・・っていうか、すぐそばにはばあちゃんがいるんだよ!
しかし、当のばあちゃんは「あらあら」などと暢気なことを言って猫を抱き上げる。
ばあちゃん・・・っ・・・もうちょっと焦ったり何か反応はないのかよ・・?
「・・・っ・・・連、ふざけてるのか?離せっ・・・!」
仕方なく腕の中で抵抗しようとするが、連の力は思ったより強い。
・・・連・・・?
少しだけ不審に思い、顔を上げるが連の顔は俺の肩口に埋まっているため、見えない。
「・・・そばにいるから。」
「え・・・?」
不意に声が聞こえてきた。
「さすがにいつもってわけにはいかないけど、でも、可能な限り・・・といるから。のそばにいるから・・・」
そう言って、まっすぐに見つめられると微かに胸がトクンと高鳴った。
−連が何を俺に伝えたいのかはまだよく分からない。でも、俺は連の言葉にとても安心していた。−
「ん、ありがとうな。連」
にこりと笑みを浮かべながら礼を言うと連はそのまま俺の顎に手をかけ、顔を近づけてきて・・・−
「そこまでっ!」
とっさに俺はその場にあったお盆をバンッと連の顔にぶつけると叫ぶ。
あたりにはガンッという音が響いた。
あ・・・もしかして、顔打ったかな・・?
「ってぇ〜・・。・・この雰囲気でかよ?!」
連が鼻を押さえながら残念そうに言うが、PTOを考えろっての!
「・・・ったく、油断も隙もない。それよりさ、こいつみてよ」
俺は一度大きく溜息をつき、いうとばあちゃんが抱いていた子猫を受け取ると連に見せる。
猫はこの家で飼ってもらえることが決定して、ついさっきばあちゃんが猫の首に水色のリボンを結んでいた。
一時的な首輪代わりだ。
「へぇ・・・リボン似合ってるじゃん。」
「それでさ、こいつの名前なんだけどさ。ばあちゃんとも話してたんだけど、拾い主−お嬢につけてもらうのがいいんじゃないかって思ってさ。もちろん、お嬢じゃなくても連達でもいいんだけど・・・」
そこまでいうと、連が俺の腕の中から猫を受け取ってそっと視線を合わせた。
「分かった。お嬢に伝えとく。でも・・・俺だったら」
連は猫を片手で抱き、空いている手の方で俺の髪にそっと触れる。
「ってつけるけどな、猫の名前」
「なっ・・・!?」
俺はよけいに頬を染めると連の足を思い切りだぁんと踏みつけ、「却下!!」と叫んだ。
・・・ってか、俺、連に対して少し手出し過ぎだよな。
あれから10分後、足を押さえていつも通り「いってぇ〜・・・」と呻く連の相手をじいちゃん達に任せ、俺は和室から少し離れた自分の部屋でスポーツバッグに衣類などを詰めていた。
今日、じいちゃんの家に行こうと思っていた理由は、必要な荷物などを取りに行こうと考えていたから。
まぁ、昨日になって急遽、猫を連れて行くことも理由の1つになったんだけど・・・。
「・・・別に連のこと嫌い、ってわけじゃないんだよな・・・」
そう、連のことが嫌いなんじゃない。
まず、嫌いならキスなんかさせないし・・・。
ただ、ああいう風に扱われたことが今までに1度もないから・・・どうしていいか分からないんだよな。
ああやってキスされて・・・抱きしめられたり、頭撫でられたりなんてされたことないから。
しかも、誰かに『好きだ』なんて言われたの、初めてだし・・・。
それでいつも恥ずかしくなっちゃって・・・気がつくと連の足踏んづけたりとかしてるんだよな。
そこまで考えると俺は小さく溜息をつく。
「・・・口より先に手が出るって・・・ガキだよな。まぁ、実際ガキなんだけどさ。」
なんか言っててものすごく情けなくなってきた・・・。
輪入道にセクハラまがいな事されても、殴ろうとかは思いもしないけど・・・駄目なんだ、連には。
何ていうか「素」が引きずり出されてしまうっていうか・・・。
「はぁ・・・」
口から再び溜息がもれる。
「ってか、返事どうしよう。」
そうなのだ。連に対して暴力的になっちゃうってのも問題なんだけど、もう1つの問題は連への告白の返事。
連が何も言わないことをいいことにその事については今日1日全然触れていないけど・・・。
「・・・」
俺は衣類をバッグに入れる作業の手を止めると、そのまま畳の上にごろんと寝転がった。
少しだけ視線を上にずらせば、窓の向こうには抜けるような青空が広がっている。
・・・お嬢達に出会ったのは本当につい最近だ。
でも・・・何故か俺はもう何年も一緒にいるように感じるときがある。
居心地のいい場所。大切な場所−。
「お嬢も輪入道も骨女も・・・連も。俺にとってすごく大切な人、っていうのは間違いじゃないんだけどな・・・。」
もちろん「仲間」としては皆のこと「好き」だ。
俺はゆっくりと瞳を閉じた。
真っ暗な視界の中、浮かんでくるのは一目連の姿だけだ。
「俺・・・連のことどう思ってるんだろ・・・?」
仲間としては「好き」だけど・・・。
一目連がいっている「好き」とは違うものだし・・・。
「でも・・・」
小さな声で呟くと俺は自らの左胸に手を置く。
「連のこと・・・『意識』はしていると思う・・・」
その言葉を裏付けるように胸がとくんと脈打った。
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