聖魔の血脈・5
絶望に閉ざされたミシェルの胸にかすかな希望が生まれた。
そのかすかな希望は同時に、ミシェルの激しい怒りと決意を鈍らせていく。
少年の中に生まれた迷いを見透かし、神父の顔をした吸血鬼は笑った。
「もっとも、お前は私に血を提供するぐらいなら自害を選ぶような勇敢な少年だ。ならば吸血鬼を肉体に棲まわせた、間抜けな神父を殺して後顧の憂いを絶つべきかもしれんな」
にいと目元で微笑んで、彼は紙のように白くなった少年の美しい面を眺めやる。
「さもなくばもう一度舌を噛んでみるか。だがお前という贄を簡単に得られる立場だからこそ、私はこの男を仮宿に選んでやったのだ。もしもお前がいなくなれば……」
獲物をいたぶる獣のような言葉が、思わせぶりに語尾を濁して牙を潜めた唇から漏れる。
その唇がやがて自分のそれに重なって来ても、ミシェルはただぎゅっと目を閉じただけだった。
「…………は、ぁっ…………、ん、ん、んッ…………」
暗い部屋の中に、押し殺したあえぎと淫らな舌遣いの音が響き渡る。
両腕を戒められたまま、足を開かされたミシェルの下腹に黒髪の青年が顔を埋めていた。
「あぁ……、ん、あっ、やめ…………っ」
執拗に性器をしゃぶる舌先に惑わされ、ミシェルは切なげに頭を振り続ける。
少年の衣服は引き裂かれ、残っているのは腕を覆う袖の部分のみ。
白い胸元から平たい腹、内股にかけては幾つもの唇の跡が散らばっている。
全てロランが、ロランの肉体を使った吸血鬼が行ったことだ。
「あ、ぁ…………っ、ああ、いやあ…………!」
先端をきつく吸われ、絶頂を抑えきれない。
いけないと叫ぶ理性を振り切って、ミシェルはロランの口の中に放ってしまった。
「ふ、あ…………あああ…………」
吐精の余韻に震えるミシェルの下腹から、神父の姿をした吸血鬼はゆっくりと顔を上げる。
生き血ならぬ精液に濡れた唇を、彼は卑猥なしぐさでぺろりと舐め上げて言った。
「おやミシェル、そんなに私の舌が気持ちよかったのかい……? ずいぶんたくさん出したね」
語る口調も声も、聞き慣れすぎたロランのもの。
ミシェルは顔を真っ赤にし、潤んだ瞳で必死に叫ぶ。
「やめろっ、先生の声でそんなこと言うな…………!」
恥辱と怒りに震えるミシェルを見下ろし、吸血鬼は今度は自分の声で満足そうに笑った。
「ふふ、そんなにこの男が大事か。だがその割には体は素直な反応をする。本当は、この男にこんなことをして欲しかったのか?」
更なる侮蔑ににらみ付けようとしても、体に力が入らない。
何よりにらんだその顔が尊敬するロラン神父であっては、どうしてもためらいが出てしまう。
吸血鬼に意識を乗っ取られ、眠っている状態のロラン。
本当なら彼ごと吸血鬼を退治する、それがミシェルの役目ではあるのだろう。
けれど、例え本当はもうロランが死んでしまっているのだとしても、胸に芽生えた一抹の希望を捨て去ることは出来ない。
ミシェルにとって彼は、たった一人の心許せる人なのだ。
失いたくない。
「可愛い子だ。そのような顔をするな…………心配せずとも、いずれこの男のことなどお前も忘れてしまう」
憂いに曇るミシェルの表情を見て、吸血鬼はそんなことを言った。
その指先が伸び、ミシェルの性器に絡んだ白濁をすくい取る。
「ん、んっ……!? あ、やっ、そこはっ…………!」
ぬめる指が尻の奥に触れ、先が中に侵入してくる。
快楽にすでに薄く口を開けていた穴は、一本目をたやすく飲み込んでしまった。
「あう、んっ……」
痛みよりも圧迫感と異物感で息が苦しい。
内蔵を直に触られるような感覚に耐えるミシェルの中に、追い打ちをかけるようにもう一本指が入ってくる。
「く、ぅ……、痛いっ、やだ、やめて…………っ」
縁がびくりと引きつれ、圧迫感と痛みが背筋を駆けた。
苦悶するミシェルの中を、だが神父の指が躊躇なく蹂躙し始める。
「ふあ、あっ…………、いやッ、…………あ、う……」
直接的な痛みはもちろん、この先を嫌でも想起させる行為。
さすがに激しく暴れるミシェルの足を片手で押さえ、吸血鬼はにやりと冷たく笑った。
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