聖魔の血脈・6



「そんなに嫌なら、また舌を噛んでみるか?」
出来るはずがないと分かっていての言葉にも、ミシェルは目を閉じて顔を背けるだけ。
薄闇の中でなお輝くようなその美貌を楽しみながら、吸血鬼は更にもう一本指を進める。
「痛い…………ッ」
「もう少し我慢しろ。これで痛がっていては、私のものなどとても受け入れられないぞ」
露骨な行為を匂わせる言葉に、ミシェルはふるふると身を震わせた。
「血、血が、僕の血が狙いなら、どうしてこんなっ…………!」
「愚問だな。お前も分かっているはずだ。人も魔をも誘う、己の罪深き存在を」
「うああ…………っ!」
揃えられた三本の指が、ミシェルの中で更に広げられる。
本当にどこかが裂けたのだろう。
びりっとした痛みとともに、まだ無垢な肉穴にうっすらと血がにじむ。
そこから立ち昇る、甘い芳香。
魔をも惑わす誘惑。
ロランの肉体を借りた吸血鬼の瞳の奥に、抑えきれぬ歓喜の灯が灯った。
「本来なら犯す前に、血を吸ってやるところなのだがな…………肉欲を知り、堕落した者の血など臭くて味わえたものではない」
傲慢な台詞を吐きながら、彼はゆっくりと己の下腹に手を伸ばす。
「しかし犯す前に血を吸ってしまうと、お前まで我が眷属になってしまう。生憎と私は、眷属を増やすことに興味はない」
仲間を増やすことは彼の目的ではないらしい。
こうしてミシェルを犯すことには、彼が吸血鬼となることを防ぐ意味もあるようだった。
「だが……清き血とは、主が純血を失ってなお甘露に喉を潤すと聞く。さあ、ミシェル。体の力を抜け」
取り出したものを掴んだまま、吸血鬼は奇妙に優しい声でそう言った。
いつの間にかその姿は、彼本来のものと思われる豪奢な衣装に身を包んだ美青年のものになっている。
そしてミシェルの中から指を引き抜き、そこにかすかに付着した血を大切そうに舐め上げてみせる。
「…………美味だ。おまけに、強い力を感じる……乾いたこの身には、目眩がするほどに染みるぞ」
満足の笑みを浮かべた彼は、ミシェルの胸を突くようにして折り曲げさせた。
「い、いやっ、あ…………!」
抗おうとしたミシェルの尻肉に、濡れた切っ先が触れた。
瞬間逃げようとした腰を追い、太いものが一気に押し入ってくる。
「あああああ…………ッ…………!」
絶叫したミシェルの中を、吸血鬼はいきなり奥まで貫いた。
「ひ……っ……! い、痛いぃ、いや、嫌だ、やめて、うああああっ!」
泣き叫ぶ体を易々と押さえ付け、吸血鬼は腰を動かし始める。
「いたあ、いや、やだっ! やだあ、先生、先生、せんせ……ッ」
痛くて苦しくて、まともに声が出ない。
救いを求めるように呼んだ「先生」に、吸血鬼は鼻で笑って応じた。
再びロランの姿になって。
「可愛いミシェル…………いい子だ。ほら、ここが気持ちいいね…………?」
神父の顔と声に硬直したミシェルの胸元に、彼の手が伸びてくる。
きゅっと摘まれ、いじくられると体は勝手に反応してしまう。
「……んっ、んっ……や……だっ、やめ、先生の、先生の姿を使うなあ…………っ」
「そんなことを言って……ほら、ここを引っ張るたびに中が締まる」
とがった先をきゅっ、きゅっと緩急を付けて摘み上げられるたび、ミシェルの息は弾んだ。
「あ、あ……っ、神父様ぁ……」
混乱して思わずそう呼べば、今度は吸血鬼の顔と声がこう言う。
「神父になぶられて感じているのか。清き血の持ち主は魔と共鳴しやすく、背徳の快楽に弱いというのは本当のようだな」
まるで二人の男に同時に犯されているような、倒錯的な快楽。
痛いのに、嫌なのに、その思いとは裏腹に燃え上がっていく体を制御できない。
「いやっ、あっ、あっ、あっ…………!」
いつしかミシェルの唇からは、甘い悲鳴が漏れ始める。
神父と吸血鬼、次々と入れ替わる二人の男に繰り返し犯され続ける狭い通路は次第に快感を追えるようになって来ていた。
頃合いを見て取ったか、吸血鬼はミシェルの腕を封じていた短剣を抜いて床に投げ捨てた。
だがそれにもほとんど気付かないほど、ミシェルは彼の行為に翻弄されていた。
「んあッ、あっ、やっだめ、だめそこはぁ…………!」
ある一点を執拗に突かれるたびに、信じられないような快楽が脳天まで突き抜ける。


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