聖魔の血脈・7



無我夢中で首を振り、やり過ごそうとするミシェルの耳元に意地悪なロランの声が甘く響いた。
「嘘つきだね、ミシェルは……ここが気持ちいいくせに」
「あ……うっ、やだぁ、神父様やだあ…………!」
「何が嫌なものか…………乳首をこんなに硬くして。教会で吸血鬼に犯されてよがり狂うとは、ふふ、清き血が聞いて呆れる……」
ぴんととがった乳首の先をなぶりながら、吸血鬼はそう言って低く笑う。
頭がどうにかなりそうだ。
気が狂いそうなぐらい恥ずかしくて、嫌で…………気持ちいい。
もうどうしようもない。
ただ早く、早く終わらせて欲しい。
脳味噌は熱い快楽に甘く溶け爛れ、それ以外のことを考えられない。
「ふあ、ああ、あっ、僕、もう、僕…………っ!」
切羽詰まった声で叫ぶミシェルに、美しい魔物は薄く笑む。
次の瞬間大きく開いた唇が、ミシェルのうっすらと上気した白い首筋に押し付けられた。
「あ、あーっ…………!」
皮膚を裂かれる痛み、そこから奪われていく何か。
同時に、中に注がれる熱い液体。
相反する二つの強い感覚に押し流され、ミシェルもまた絶頂を迎えた。
「ああ、あ…………っ……」
初めての内部に放出される精液の感触に朦朧としながら、血をすすられる甘苦しい痛みに震える。
「あ……っ、あ…………」」
全身に全く力が入らず、涙が勝手にぽろぽろと零れた。
体を奪われ、血を吸われてしまった。
恐れていた二つのことが同時に起こった。
真祖である吸血鬼に力を与えてしまったのだ。
ロランが知ったらきっと怒る……いや、彼なら悲しむか。
それでも、それでも先生を僕はと、思った瞬間だった。
不意に吸血鬼が顔を上げた。
ミシェルの血に口元を濡らしたその表情には、初めて見る動揺の気配がある。
「……くっ、これはっ…………」
喉元を押さえ、彼は苦しげな声を出した。
「くそ、神父かっ…………! あじな真似を…………!」
その様に、ミシェルの意識もはっと覚醒する。
まだ痺れたような腕を動かし、何とか上体を起こした。
吸血鬼は立ち上がり、よろよろと部屋の壁に手をついている。
その姿はゆらゆらと不安定に揺らめき、一瞬ごとに彼とロランの姿が入れ替わる。
「ふっ、とぼけた顔をしてやる…………清き血に、退魔の施しをしておくとはな……」
どこか嬉しげな言葉を聞いて、ミシェルは思わず首元に手をやった。
指先に触れる自分の血に、確かにロランの術の名残を感じる。
いつかこういうことがあると、神父は予見していたのだろう。
ミシェル自身にもそうと知らせず、彼はミシェルの血に魔を払う力を付与しておいたのだ。
「神父様…………!」
喜びに満ちた声でミシェルは育て親を呼んだ。
だがその声に、吸血鬼はにやりと不敵に笑って言う。
「ふん、安心するのはまだ早いぞ…………だからといって、私がこの男の血を吸い仮宿としたことに代わりはない……」
「なっ……!?」
驚愕するミシェルに、彼はぞっとするほど美しい笑顔のまま続けた。
「だが、深い眠りが必要になったことは確かだ……覚えておけ。我が名はバートレイ伯爵…………ミシェル、美しく淫らなお前、お前は私のものだ……」
その言葉を最後に、吸血鬼の姿は揺らぎ闇に溶ける。
後に残ったのは床に崩れ落ち、ぴくりとも動かないロラン神父だけだった。


***


丸三日の間、神父は目を覚まさなかった。
四日目の朝、ようやく目を開いた神父をミシェルは弾けるような笑顔で出迎えた。
「神父様!」
「ミシェル…………? あ、っつっ……」
起き上がった早々、ロランはうめき声を上げて再び自分のベッドに沈む。


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