炎色反応 第二章・14
「ここは指じゃ足りないって言ってるんだよ。はっきり言えよ、ほら!」
言葉でせかしながら、男はティスの中に入れた指を乱暴に動かした。
前立腺の裏を、固い指の腹でこすり上げられる。
ティス自身にも中に溜まった精液を搾り出すような愛撫が加えられた。
「ふあっ、あっ、ああんっ」
枯れたはずの喉から引きつった甘い声が零れた。
頭ではこんなことはいけないと分かっているのに、オルバンに躾られた肉体は快楽に実に従順だ。
肌に触れられ、中を刺激されると、否応なく反応を返してしまう。
小さな穴と性器をいじられて悶える彼を見て、それ見たことかと男たちは笑った。
「全く、強情なガキだ。まあいいや、体は素直だからな」
濡れた音を立てて指が引き抜かれ、ずんぐりとした性器が代わりにそこにあてがわれる。
「これだけやって緩くならねえしな。すげえ仕込みだよ、全く」
「当然だろう」
唐突な声が、狂乱の空気に酔った男たちの心を凍えさせた。
雰囲気が変わったことに気付き、愛撫に潤んだ瞳をティスは緩慢にさまよわせる。
ぼやけた視界の中を見慣れた光が飛んだ。
足を押さえていた男たちの手が、一瞬強く肌に食い込む。
そして、ゆっくりと、二つの影が床に崩れた。
「うわあああっ!」
悲鳴とともに、ティスを取り囲んでいた連中がいっせいに身を引いた。
取り残された金髪の少年の上に赤い雨が降り注ぐ。
酒と精液にまだらに汚された白い肌を更に汚したのは、倒れた男たちの頭部から突如として噴き出した血だった。
***
「魔法使い!」
アインが驚きの声を上げて酒場の入り口を見つめる。
黒い衣の裾を夜風にひるがえし、オルバンがにやにやしながらそこに立っていた。
軽く掲げたその右手の先に、二粒の光が飛んで来る。
ティスの両足を押さえ付けながら、順番待ちをしていた男たちの頭を貫いた光だ。
「うぐ、げえええっ」
酒と精液の中に更に血の匂いが混じり、ひどい悪臭立ち込める中に誰かがえずいた物の匂いまで混じった。
例の気弱そうな青年が、仲間たちの体から流れ出た血溜まりの中に吐瀉物を撒き散らしている。
ティスも青い顔になり、震えながら身を起こした。
その拍子に肌に付着していた血が、次いで注ぎ込まれた酒と精液が卓の上に流れ出す。
「んっ…」
こんな時に、と思ったが、むしろこんな時だからかもしれない。
恐怖と官能がない混ぜになり、彼は小さな声を漏らした。
「全く、面白いよなあ」
にやにやしたままオルバンは酒場の中に歩を進めて来た。
「気色が悪いのどうのと言ってたくせに、そんなにそいつとやるのが良かったか。わざと鼻先をかすめて姿を消してやったら、半日も待てないとはな」
ふんと彼は鼻を鳴らした。
「浅ましい奴らだ。家畜がどうこうほざいてたが、お前らにやられるのも馬にやられるのも大した差はなさそうだな」
「お前っ……わざと!」
驚愕の声を上げるアインにオルバンはなおも笑いながら近付いていく。
「オレがそいつを抱いてるのを、涎垂らして覗き見してただろうが。気付かれないとでも思ってたのか? 浅ましい上におめでたい奴らだ」
今朝ここで、その後宿で、若者たちに輪姦された後のティスをオルバンはいつものようにおもちゃにした。
欲望にぎらぎらと光る目をいくつも感じながら、それを承知でわざと見せ付けたのだ。
「なかなか面白い見世物だったさ。お前らもたっぷり楽しんだろう?」
いつしかオルバンはアインまで数歩もない距離に立っていた。
「だがな、この火のオルバン様の持ち物に許可なく手を出したんだ」
面白そうな笑みの奥に、深い闇が口を開けている。
「覚悟はいいな」
言うが早いかオルバンの右手の先がまた光った。
強大な力を持つ小さな流星が酒場の中を飛び回る。
ティスが唖然として見つめる中、輝く軌跡を描いて飛んだそれは次々に卓の周りの男たちに襲いかかった。
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