炎色反応 第二章・16
震えながらティスが見守る中、胸元の火はどんどん勢力を広げていく。
下腹を中心に飛び散った精液、酒、血などの付着物がその火に触れた瞬間蒸発するように消えた。
火自身もティスの全身を一通り舐め尽くした後、あっけなく消滅してしまった。
「オレが汚いと思った物だけが焼ける」
そう言ったオルバンの背後で、火に包まれたアインがゆらりと動いたのが見えた。
「なあ……オレ…………どうなるんだ?」
彼を包む火は激しくなっており、今やほとんど火の塊だ。
そのせいでおぞましいその姿ははっきりとは見えないが、内部がどうなっているかはたやすく想像出来る。
ぞっと総毛立ったティスを尻目にオルバンは悠然と振り向き、こう言った。
「焼け死ぬ」
「そんな!」
悲痛な声を上げたアインに魔法使いは薄い唇を歪めて笑った。
「お前のような家畜以下の奴にはまだましな刑罰だろう? 痛くも熱くもなく、ただ死ねるんだぞ」
「そんっ、い、嫌だ! 嫌だ!」
「嫌だやめてとわめくこのガキの願いを、お前は聞いてやったか?」
低い笑い声が彼の口から漏れた。
「駄目だ。死ね」
「………まっ…魔法使いだからって、偉そうにしやがって!」
炎の中から、アインはやけくそのように怒鳴った。
「お、お前が、お前がオレたちを挑発したんじゃないか! そのガキだってオレたちに輪姦されて泣いて喜んでたんだ、お前だって見てたんだろうがッ」
ティスにはほとんど顔が見えないオルバンの放つ雰囲気が変わった。
身動きすることも許されないほど、濃度の高い殺気が黒い衣の青年を包んでいる。
「魔法使いは、生まれ付きお前ら何の能力もない人間どもを支配する力を持っている」
揶揄するような響きを失った彼の声は、今まで聞いたこともないほど冷たかった。
「お前は勘違いしている。オレたちは偉そうなんじゃない」
彼の体を離れた殺気がアインに向かって放たれた。
「偉いんだ」
「ぎゃああああっ」
アインの絶叫が響き渡る。
「熱い、あつっ………あああああああ!」
火の塊が床を転げ回り、何度か大卓にもぶつかって来た。
オルバンが浄火に加減を加え、焼かれる感覚がアインに伝わるようにしたのだろう。
彼は血も凍るような叫びを上げ続けていたが、始めの火が点いてからすでにかなりの時間が経っていた。
案外早い段階で悲鳴は聞こえなくなり、間もなく酒場の中に静寂が戻った。
卓ががたがたと揺れるのが収まってもティスはまだ動けない。
置いていかれたと思い、痛んだこの胸が呪わしい。
どうして置いていかれた幸運を喜べなかったのか。
こんな男の側に今後も居続けるぐらいなら、アインたちに飼われていた方がまだましなのではないか。
「ティス」
ゆっくりとオルバンが振り向いた。
火の魔法使いの瞳の中で、何より熱い炎がまだ燃えているのが分かる。
「分かるな? 助けてやったんだ。お前が鎮めろよ」
言うなりオルバンが圧し掛かってくる。
彼の重さをまだどこか呆然としながらティスは受け止めた。
大きな手が、すっかりきれいになった肌をなでていく。
「あ……」
快感というより、触れられること自体にティスはか細い声を上げた。
今更のように体が震えてくる。
「どうした。オレが怖いか?」
からかうようにオルバンがつぶやいた。
まさかそうですと言うわけにもいかず、ティスは震えながら目を逸らす。
オルバンはそれを許さず、ぐいと彼の髪を掴んで顔を引き上げた。
「いたっ」
うめいた唇を、柔らかいものにねっとりと覆われる。
自らもわずかに顔をかたむけたオルバンが口付けを仕掛けて来たのだ。
「ふっ…………う、ん……」
何度も角度を変えられ、貪るように口腔の中を舐められる。
敏感な天井部分をつつくようにしてなぶられ、両足の内側がびくびくと引きつった。
手が太腿をさする。
そのまま内側に入った手が、軽く足を開かせてその狭間に入って来た。
「んん、んっ」
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