炎色反応 第三章・4



「……見ているな。本当に、色々な奴が」
ふと、オルバンが小さな声でそう言ったのが聞こえた。
金の瞳の奥で何か、肉欲とは違う得体の知れない感情が揺らめくのが見える。
「オル……ん、ああっ、だめぇ………!」
何事かと問おうとした声が悲鳴に変わった。
オルバンはティスを自分のひざの上に落としてしまうと、腰を使い下から強く突き上げるようにして一気に彼を追い上げていく。
「んああっ、ああっ、オルバン様……ああああっ!」
絶頂を迎える瞬間、猛々しいものが体内から引き抜かれたのを感じる。
血管の浮いた巨大な性器は、ぬらぬらと光りながらティスから抜け出ると彼目がけて熱い液体を放った。
「ああ………あっ…」
びちゃ、びちゃっと音を立て、下腹から胸にかけて濃い精液を浴びせられる。
自らも同じ液体でオルバンの衣服を汚しながら、ティスは白濁にまみれた姿でうっとりと微笑んだのだった。


***

それぞれ身を清め、服を着替えた後オルバンは珍しく寝台の上で目を閉じていた。
「オルバン様、昼寝されるのですか…?」
ティスが声をかけても、ああ、と寝ぼけたような声が返ってくるばかりだ。
連日朝となく昼となく自分を抱いている男が疲れた様子を見せることはめったにない。
ちょっと心配になったティスはそっと彼の顔を覗き込んでみた。
「わっ……、んんっ」
腕を引かれ、倒れ込まされて口付けられる。
いつもと比べれば軽い口付けをかわした後、彼はふわあとあくびをしながらこう言った。
「暇なら散歩にでも出たらどうだ。この村の中はまだ見て回っていないだろう」
確かにここに来てからすぐ宿に入り、その後は延々とオルバンに抱かれていた。
でもティスは別に、どうせ明日辺りにでも出て行く村の中にあまり興味はない。
村人たちに変な風に見られるのは、さっきはどうでもいいと言ったがやっぱり嫌だ。
だから出来たらここにいたいが、オルバンはどうも自分を追い払いたいように見える。
「分かりました。それじゃ、少し散歩して来ますね」
考えてみれば彼と離れ離れになるのはあの、酒場の男たちに連れ去られて以来だ。
思い出して少し恥ずかしい気持ちになりながら、ティスは足早に部屋を後にした。




人目を避けるようにこっそりと宿を出て、裏手の方に回ったティスはほっと息を吐いた。
以前の彼ならば、今が逃げ出す絶好の機会だと思えたかもしれない。
だが元々方向音痴な上、金銭はおろか生活に役立つような物など全く持っていないのだ。
生まれ育った村からはもうずいぶん遠くまで来た。
風俗も気候も、この辺りのものは見知ったそれとは全く違う。
見知らぬ地で一人、その状態で自由になったとしても待っているのは野垂れ死にの運命だろう。
それに……あのオルバンが、逃走した奴隷を黙って見逃すとも思えない。
使う機会がないだけで、彼に更に恐ろしい力があることをティスはぼんやり感じている。
もしも今、逃げ出したとしても、きっとすぐに見付かるだろう。
その後はおそらく…
ぞくりと背筋が震えて、ティスは一人顔を赤らめた。
「…………何考えてるんだ、オレ」
邪な考えを振り払うよう、宿の裏に広がる林に何となく足を踏み入れていく。


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