炎色反応 第四章・1
人によってはすでに布団に入っているような時間だった。
立ち並ぶ木々に覆われた、薄暗い森の奥で赤い火が不自然なほど強く燃えている。
その前で、粗末な旅装束に身を包んだ少年は黒衣の男に抱かれようとしていた。
不意に抱き寄せられ、口付けられてから始まる行為はそれが建物の中でも外でも変わらない。
「ん……、ん…」
多分に子供らしさを残した愛らしい顔立ちの金髪の少年は、主人である男に抱きすくめられ声を詰まらせる。
深く舌を差し入れられての強引な口付けを受けながら、彼は水色の瞳をそっと閉じた。
全ての物思いを閉ざしてしまうように。
「ん…………はぁ」
ややあって、彼から舌を引き抜いた男は薄く笑う。
「物欲しそうな顔をしているな、ティス」
名を呼ばれ、ティスは潤んだ瞳で彼を見つめ返す。
まっすぐに高く伸びた木々の隙間から降る頼りない月明かりに、見上げた金の瞳が強く光っていた。
夜と同化したような黒衣、裾に赤い糸の縫い取り。
短い黒髪に囲まれた不敵で精悍な面構えは、己の能力に絶対の自信を持つ男特有の物だ。
良くも悪くも有名な火の魔法使いのオルバンが使う火は、燃料がなくても彼の意思で自在に燃える。
今も二人の側で、その火は一見通常の焚き火のように赤々と光を放ち辺りに熱を放っていた。
そのため戸外でも寒いということはなく、一回りも体格の違う男に抱き締められればなおのこと暖かい。
けれど最近、どれだけの温もりに包まれてもどれだけ激しくオルバンに抱かれても胸のどこかが冷えている。
絶対者である魔法使いの性の奴隷になり、その意のままにもてあそばれる淫乱な人形であることが悲しいわけでは最早ない。
むしろティスは、早く完全な人形になりたかった。
オルバンになぶられ、鳴かされ、貫かれ精を注がれてよがるだけの存在になりたい。
兄とも慕っていた人が見せた、あの欲望を露にした顔を早く忘れてしまいたい。
「……欲しいです。オルバン様。あなたに、犯されたいです」
小さな声でつぶやいたティスは、自ら彼に身を寄せる。
オルバンは音のない笑みを漏らすと、ティスの上着の中に手を差し入れてきた。
「ん…」
服の中で動く指がすぐに乳首を探り当てる。
口付けに少し硬くなり始めているそれを、オルバンはつまみ上げくりくりと転がした。
「んん、はぁっ……」
開発され尽くしたそこは、ひどく敏感になっている。
たちまちびくりと身を反らしたティスの顔を見ながら、オルバンはその耳元にささやいた。
「ズボンと下着を脱げ」
自分で服を脱ぐよう言われ、かすかに顔を赤らめながらティスは服に手をかける。
肌を露出すると、やっぱり少し寒い。
だがためらうことなく両方脱いで、彼は白い下肢を夜の森の中にさらけ出した。
そうしている間にも、衣服に包まれた胸元には休みなく愛撫が加えられている。
「ん、あ……やぁ………」
両の乳首を何度も強く引っ張られ、被虐の快楽にティスは整った顔立ちを歪めた。
ぴくぴくと震える体を楽しむようにいじりながら、オルバンは更に命じる。
「膝立ちになって、自分で尻を開いてみろ」
言われるまま、ティスはのろのろと腰を上げた。
向かい合う形になっているので、そのまま体を反転させようとしたが止められてしまう。
「そのままで、尻を開くんだ。入れて欲しいところがよく見えるように」
見えると言われても、ティスの背後に広がるのはただの夜の森の闇ではないか。
でも、ティスは下手に追求することはやめた。
何も考えず、自分は彼に従っていればいい。
「ん…」
薄い尻の肉を自ら掴み、左右に割り開く。
普段は隠されている皮膚に冷たい空気が当たり、とても頼りない気分になった。
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