炎色反応 第四章・13
「そのままではお前も辛いだろう。オルバンが来ないと言うのならなおさら、治療が必要なはずだ」
大きな手が、土の壁の中にうずくまるティスに伸びて来る。
一瞬ティスは身構えたが、どうせ抵抗しても無駄だろう。
おとなしくその腕に身を任せ、彼はディアルの胸の中に迎え入れられた。
座った状態のティスを背後から抱き抱えた格好になると、ディアルはその足をゆるく開かせた。
白っぽい軟膏を入れ物からひとすくい指に取り、傷付けられた部位に後ろから触れて来る。
「う…」
痛みに声が漏れた。
傷口を包み込むように薬を塗られると、やはり非常に痛い。
「耐えられないようなら、言ってくれ」
「い、いいえ…」
染みるし、もっと裂けていくような感じさえするが死んでしまうというわけではない。
それに…………ぬるぬるとした指でそこを触られると、どうしても、体が反応してしまう。
漏れそうになる声を押し殺し、ティスは情けなさに瞳を伏せた。
さっき自分で認めた通りだ。
どうしようもない淫乱。
肉を引き裂かれ、あれだけの痛みを味わったのにそこは性懲りもなくうずき始めている。
ディアルにもティスの様子がおかしいことは伝わったのだろう。
彼は薬を塗り付ける右手はそのままに、左手でティスの性器に触れてきた。
「あっ……」
肩が震える。
裂かれた服の狭間、覗く肌にディアルは優しく口付けを落として言った。
「恥ずかしがらなくていい。お前は、こうならなければオルバンに殺されていたかもしれないんだろう。何も恥じる必要はない」
さっきまで自分を犯していた男とは思えない台詞に、ティスの胸はぎゅっと締め付けられた。
事実、薬を塗る指は決してそれ以上の行為をしようとはしない。
性器を扱く指にも激しさはなく、中途半端な状態から解放することだけを目的としているようだ。
オルバンに出会って以来ずっと、性の玩具として毎日のようになぶられ続けて来た。
そうするかしかなかったと自分に言い聞かせながらも、オルバンばかりではなく同じ人間たちにまで精液を注ぐためだけの穴のように扱われた。
ついには、思い出の中で暖かに笑っていたあの人にまで辱めを受けた。
しかも彼の意思によって。
好きだ、守ると何度も言いながら、イーリックはティスの意思を無視してこの体を貪った。
「……う……」
さっきまでとは違う意味で、声を抑えられない。
すすり泣くティスにディアルは薬を塗り、精液を吐き出させた後しばらくも広い胸の中であやすように抱き締め続けていた。
どれぐらいそうしていただろう。
気が付けばかなり薄暗くなった丘の上、ティスを背中から抱いたままディアルはこんなことを聞いて来た。
「お前は、魔法使いのことをどれぐらい知っている?」
問われ、今は涙も乾いて落ち着いたティスは暖かな腕の中で少しかれた声を出す。
「地水火風の、四つの力を持つ魔法使い様がいらして…………その力は、生まれ付き持っていらっしゃる精霊石によって…………とても数が少なくて、ほとんど人前に出られることは、なくて…」
オルバンという例外を日々見てはいるが、基本的に魔法使いとは人目を避けて生きる隠者である。
ティスのようにただの人間であるのに、生涯ですでに三人もの魔法使いに会ったことがある者は稀だろう。
「そうだな。大体その通りだが、幾つか説明が要りそうだ」
ディアルはそう言うと、ティスの目の前に自分の指輪を掲げた。
「魔法使いは生まれつき、手に精霊の与えた宝石を抱いて生まれる。普通は両親のどちらかが魔法使いだが、たまにひょこっと人間の中に生まれることもある」
ティスもその昔、生まれ育った村の中から魔法使いが出たことがあるとは聞いていた。
こっくりうなずく少年にディアルは説明を続ける。
「魔法使いの親元に生まれた子供は、それぞれの属性ごとの集団に引き取られる。だが人間の間に生まれた魔法使いは、その子が属する魔法使いたちに連絡し早急に引き取ってもらう」
それもティスは知っている。
「絶対に、手放さないといけないのですよね。そうしないと、無理やり連れて行かれるって……」
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