炎色反応 第五章・21



別にオルバンが何かしたわけではない。
彼の指にある精霊石は、火のものも風のものも輝いていない。
オルバンはただティスを見つめ、意味ありげなしぐさをして見せただけ。
だけどそれだけで、ティスは官能を覚えた。
「は、ん……」
中に潜っていた指の動きが早くなる。
くちゅくちゅという音が上がるたび、そこから漏れ出た精液が地面に染み出した。
靴先が何度も辺りの草を蹴る。
素裸のような状態なのに、それだけ残っているのが変にいやらしかった。
自慰に耽るに近いその淫靡な気配に後ろ髪引かれるような顔をしているザザだが、やっぱりオルバンが怖いらしい。
自分の方を見もしない男を気まずそうに見ながら、彼の質問に答える。
「地、地は…………オレは、見たことがない。他の奴のことは、よく、分からない」
「分からない?」
ティスを見つめたままオルバンは聞き返した。
「分からないんだ。オレたちは、ただその、お前が、あの情報屋のところにいるって……連絡があったから、その」
「昔の憂さを晴らそうと、仲良くやって来たらあっさり見捨てられたってわけか」
くすと小さく皮肉っぽく笑う、その声を聞くとまたティスの官能は高まる。
その指の動きはもう、精液をかき出すためのものではなかった。
自分の指でないような気さえした。
ザザと会話をしながらも、強い視線でじっと自分を見つめるオルバン。
今ひくつく穴をいじっているのは彼の骨張った男らしい指。
「ふぁ、あ、もっと……、奥までぇ………」
更なる攻めをねだる声が甘く響き、薄く開いた唇から桃色の舌先がちろちろと覗く。
我慢出来ずに右手で肉穴をえぐりながら、左手ですでに硬くなった性器を扱く。
でも足りない。
口付けも欲しい。
乳首ももてあそんで欲しい。
太い物でいっぱいに埋めて、壊れそうなぐらいに中をこすられたい。
「ん、ん…………、オルバンさ……ま…」
大きく胸を上下させながら、物欲しげにあえぐ少年にだがまだオルバンは触れない。
「そのカービアンとかいう奴が、それぞれ個別に指示を出してるわけか」
「そう、だ。オレは、そう聞いてる」
「さっきの赤毛は?」
ヴィントレッドの名前を覚えていないのか、単に長い名を呼ぶのが面倒なのかオルバンはそんな風に言った。
「あいつも……どう、かな。あの野郎、全然人の話、聞かないんだ」
憎々しげにザザは言う。
どうやら彼らは即席の相棒だったようだ。
オルバンに出会うが早いかいきなりヴィントレッドはザザを見捨て、兎狩りに走った。
この辺りからも結束力のなさは伺えた。
とはいえザザはこの性格だ。
ヴィントレッドもいい加減相手をするのに辟易していたのかもしれない。
火の点き始めた体を自分で慰める傍らティスがそんなことを考えていると、突然オルバンが歩き始めた。
彼は地面に座り込んでいるティスを見下ろし、なおもザザとの話を続ける。
「人間の王族は、グラウスの言いなりか?」
「みたい、だ」
すっかり取り残された様子のザザは、当惑しながらそこから動かずに答えた。
ティスも戸惑った目で主人を見上げたが、と、オルバンが軽く右手を上げる。
火の石が輝き始める。
赤い光が彼の全身を照らし、そしていきなりその姿が消えた。
「えっ」
びっくりして声を上げてしまったティスだが、オルバンの声がすぐにこう言うのが聞こえて来た。
「グラウスは奴らの持つ兵力を動かせる?」
声の大きさからして、彼は多分ティスのすぐ正面に屈み込んでいる。
訳が分からずティスも、そしてザザもオルバンがいると思われる辺りを見つめていた。
「あっ」
胸元にとある感覚が生じる。
すでにぷくりとふくらんだ乳首を、何かがつまんでいる。


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