炎色反応 第五章・23



相手がオルバンと分かっていても、姿の見えないこの状態でこれ以上されるのは嫌だ。
だが残念ながら、ティスの願いは逆効果のようだった。
「ふぁ……」
髪を掴まれ、口から肉棒が引き抜かれる。
姿を消す魔法はどうやら術者の肉体を離れると効果がなくなるらしい。
ティスのあごを彼の先走りと唾液が入り混じったものが伝い落ちるのが見えた。
それを拭う暇もなく、太腿に触れる手の感触。
足を開いたまま空中に抱え上げられ、ティスは小さな悲鳴を上げた。
「あっ……!?」
背を背後の木の幹に押し付けられ、割り広げられた尻の狭間に硬いものの先端がこすり付けられる。
待ち侘びていたはずの瞬間だったけれど、相手の姿が見えないため恐怖の方が先に立った。
「いやッ……ひああっ!」
ずっと水っぽい音を立て、太いものが一気にねじ込まれる。
「ま、待って、いきなりッ、あ、あっ!」
いっぱいに中を満たす、この感触は間違いなくオルバンのもの。
だが、空を切る足の向こうに見えるのはあ然としているザザだけ。
こちらを凝視している彼の瞳には、オルバンの形に広げられた自分の中が丸見えになっているだろう。
「いつもよりきついぜ、ティス」
嘲りを含んだオルバンの声が頭上から聞こえる。
「あの赤毛にたっぷり注いでもらったせいか? 熱く濡れて、ずいぶん気持ちが良さそうだ」
ヴィントレッドの精液のほとんどはかき出せていたと思う。
しかし全てが元に戻せるはずもなく、彼の出したものでティスの中は濡れたままのようだ。
「い、言わないで、そんな…………あう、あっ…!」
羞恥に顔を赤らめて願っても、オルバンの腰の動きは変わらない。
的確にティスを追い詰めていくその動きに、酔ってしまいたいのに不安感が拭えない。
だけどその不安のせいで、ティスの体は唯一認識出来る男根を普段よりきつく締め付ける。
ティス自身の感度もいつもより高くなっていて、広げられた足の間で勃ったものは早くも軽く達してしまっていた。
こぷこぷと音を立てて精液を垂れ流す、恥ずかしい姿を眺めてオルバンはなおも言う。
「こうされるのが好きなんだろう? ええ? この淫乱。奥まで見てもらえて嬉しいか?」
そうだ、ザザだけではなくオルバンの目にも、犯される自分の全ては見えている。
「……あ、ぁ……、いやぁ……!」
そうと悟った途端にさあっと全身が総毛立つような感じがして、同時にティスはまた軽く達してしまった。
感度が高くなり過ぎていて、自分で自分を制御出来ない。
極度の不安と恐怖のためか、度が過ぎるほどに淫らになった体をティスの心は持て余していた。
「ごめんなさい、許して、お願い…! い、いつもみたいに……! あぅ、やああっ!」
蹂躙するという言い方が相応しい、乱暴な突き上げに慣れていたのもすでに見知ったオルバンだからこそ。
存在は確かに感じ取れるけれど、目に映らない相手など知らないも同然だ。
「ごめんなさい、オルバン様、オルバン様ぁ……!」
背を木にこすりつけながら、ティスは必死で手を伸ばした。
指先が布地と、その下で息衝く厚い胸板に触れる。
答えがないまま、正面にいるはずの男にぎゅっとすがりついた。
「オルバン様が、オルバン様がいいんです、お願いッ……!」
こんなのは嫌だ。
オルバンにされたい。
彼に犯して欲しい。
ヴィントレッドのことなんか忘れさせるぐらい、激しく貫いて欲しいのに。
震えながら、どれぐらいそうしていただろうか。
低い満足そうな笑い声が耳元で聞こえた。
「ザザ、ちょっと待ってろよ。逃げるんじゃないぞ」
背後のザザに一応そう言ってから、オルバンは動きを止めてティスを試すようにつぶやいた。
「オレにされたいんだな?」
「そ、そうです……」
こくこくとうなずくと、ティスは仰のき彼がいると思われる辺りを見つめた。
「いつものオルバン様に……オルバン様に、注いで欲しいんです」
潤んだ水色の瞳をあの金の目がじっと覗き込んでいる気がする。
ティスは苦しい姿勢の中で何とか背筋を伸ばし、口付けをせがむように彼に顔を近付けていった。


   ←22へ   24へ→
 ←topへ