炎色反応 第六章・4



「あぁっ……、あ…………」
オルバンの膝の上、淫らな踊りを披露していた白い体から力が抜けた。
「あん…………ッ、あ、あ……熱いの……、もっとぉ………」
一拍遅れて達したオルバンの、逞しいものから注がれる精液を弛緩した体の奥で味わう。
繋がった部分からたらたらと半透明の液を垂れ流し、絶頂の余韻に浸るティスの足をゆっくりと撫でてやりながらオルバンは言った。
「オレはこれから王宮の様子を見て来る。ザザ、内部の作りを詳しく教えろ」
悠然と命じる声には、終わったばかりの激しい性交の名残が残っていた。
やや前屈みになり、情けなく反応してしまった自身を持て余すようにしていたザザは恨みがましい顔になった。
一人だけいい思いをしやがって、そういう顔だ。
だがオルバンが何でもないように風の石を光らせれば、その腕にまたも見えない糸が絡み付く。
両腕を引っ張られて一瞬宙に持ち上げられたザザはすぐに教える、教えると慌ててわめく羽目になった。


***

「よく、あいつとなんかいっしょにいられるな」
宣言通り出て行ったオルバンがいない部屋の中、乱れたベッドを直しているティスにザザはそう言った。
「…………もう慣れました」
微妙な答えを返すティスを見やりながら、ザザは神経質なしぐさで首元をかく。
そこには赤黒い跡が、首輪よろしく浮き上がっていた。
灼呪(しゃくじゅ)という火の魔法の一種である。
足手まといになると見たか、オルバンはザザに必要な情報だけを吐き出させ一人出向いていった。
しかし彼とティスを二人きりにすれば、ザザが逃げ出す危険性がある。
そうさせないための予防策としてこの魔法を残していったのだ。
あざのような輪はそれを施した術者の意に反した行動を取れば、たちどころに締まり窒息死させてしまうらしい。
ザザも火の魔法使いであり、この魔法の恐ろしさはよく知っている。
おまけに彼は風のものといっしょに火の精霊石もオルバンに奪われていている。
魔法使いといえども魔力の媒介となるあの指輪がなければ、ただの人間と変わりない。
ゆえにおとなしく、ふてくされたような顔をしてベッドの上に寝転がっているわけだ。
口の中でまだもごもごと多分オルバンに向かって悪態を突いているが、これぐらいは許される範疇なのだろう。
「あの、ザザ様」
オルバンが浄火できれいにはしてくれている敷布を整え終えたティスは、そっと彼に声をかけてみた。
「ザザ様は……オルバン様の、幼馴染なんですよね」
「そうだけど、何だよ」
警戒するような目付きになったザザに、ティスは何となく声をひそめてこう聞いた。
「オルバン様って、火の魔法使いの集落で……その、どんな感じだったんですか?」
目を丸くするザザに、ためらいながら更に言う。
「オレ、オルバン様のこと、何も知らなくて…………ザザ様のことはもちろん聞いたことがありませんし、ど、どういう風に今まで生活してらしたのかな、って…」
実はティスは、ザザが強制的に同行者とされて以来常々こういう機会を伺っていたのだ。
オルバンは己の過去について全く何一つ語ろうとしない。
奴隷にそんなことを話す必要などない、そう思っているのだろう。
ティスもティスでただ唯々諾々と彼に従いさえすればいい、余計なことに首を突っ込むまいと思っていた。
だが気付けば、彼と時を過ごすようになってからかなりの時間が経った。
その間にほんの少しだけ垣間見たオルバンの真意と、そこに至るまでの経緯。
彼が今の彼になった理由を知りたいと、いつしか思うようになっていた。
現在ティスが知るのはレイネが最初に口にし、後ディアルから詳細に聞かされた彼の両親のこと。
火の魔法使いでありながら人間に肩入れし、同族の怒りをかって焼き殺されたというオルバンの父母。
そのために息子であるオルバンもまた、白い目に囲まれて生きてきたという話だった。


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