炎色反応 第六章・6



妙な親近感を覚えながら彼を見ていたティスを、ザザは探るように見つめ返して来た。
「お前、一体何なんだ? 急にオルバンのことなんか聞いて来て」
「い、いえ、別に……」
ティスとしても、自分がなぜこんなことを聞いてしまうのか分からないのだ。
突っ込まれると弱ってしまうのだが、ザザもオルバンがいないせいで気が大きくなっているのだろうか。
ない眉の辺りをひそめ、しつこく追及して来る。
「お前、あいつの奴隷だろう。あれだけめちゃくちゃされといて、あいつのこと恨んでないのか? 変に庇うように言うよな」
「……それは、その、だって、ご主人様ですから…………」
口ごもり、瞳を伏せてしまうティスの顔には見る者の被虐心を誘う何かがある。
美しい少年の困り顔をじろじろ見て、ザザは前にも言ったようなことを言った。
「ふん、そうだよな、お前はそんな顔をして大した淫乱だ。やめてやめて言いながら、オルバンに抱かれてあれだけよがり狂って……」
ついさっきまでのことを思い出し、ティスは顔を赤くして黙り込む。
その顔に釣り込まれたように、ザザは心持ち身を寄せて言って来た。
「やっぱり好きなんだろう、あいつのことが」
「それは、オレにもよく……」
「好きなんだろう? だから気になるんだ、あいつの昔のことが」
覗き込む視線を避けるよう、ますますうつむくティスを見て彼は言った。
「いいよ、教えてやるよ、オレが知ってる限りのこと」
「えっ?」
びっくりして顔を上げたティスの目が、かつてない程すぐ近くにザザの瞳を捉えた。
微妙に灰色がかった黒い瞳の奥に、湿った情欲の炎がちろちろと燃えている。
「その代わり、させろよ」
「え?」
またびっくりして、まじまじとティスはザザを見つめてしまう。
純粋な疑問に満ちた瞳に見返されると、彼は呆気なく声を上ずらせた。
「と、とぼけるなよ。毎日毎日、人の前でやりまくって…………散々見せ付けておいて、たまったもんじゃないんだぞ、実際」
確かにティスが覚えている限りでも、もう十数回彼の前で犯されたはずである。
他の男たちには平気でティスを差し出すオルバンだが、ザザには一向に分け前を与える様子がない。
こういうところもある意味彼を特別扱いしているような気もするのだが、ザザ本人からしてみれば実際たまったものではないだろう。
だがだからといって、そうですかとさせられるものではない。
淫乱淫乱言われて来たが、ティスは決して男に抱かれることをよしとしているわけではない。
そこにある快楽は否定しないけれど、心の操とも言うべき最低限の線は守りたいと思っている。
しかも相手はこのザザだ。
オルバンと比べるとどうにも器の小ささの目立つ彼のことは、別に嫌いではない。
でも、うまく言えないが、ザザはそういう対象ではないのだ。
怖いとか嫌とか言う以前に、こんな風に迫られると思っていなかったので戸惑ってしまう。
「どうなんだよ、ほら。早くしないとあいつ、帰って来るぞ」
部屋の入り口の辺りをそわそわと見ながらザザが言う。
ティスも同じようにそちらを見たりしながらも、思わぬ提案にどうしたものかすっかり困ってしまった。
だが……やはり、首を縦には振れない。
「その……だめです。やっぱり。お話は聞きたいですけど……」
「何だよ」
ちょっと怒ったようにザザは言った。
「オルバンにもあのヴィントレッドとかにもたっぷり楽しませてやったんだろう!? なんでオレだけ…」
オルバンによく似た雰囲気を持つ火の魔法使い、ヴィントレッド。
ザザの一時的な相棒だった彼にされたことを思い出し、下腹にずくりと痺れが走るのを感じながらティスはしどろもどろに言った。
「でも、オルバン様に絶対ばれます、オレがあなたとしたら……」
「……まあそりゃそうかもしれないけど、大丈夫だって、うまくやれば」
火の精霊石もないくせに、何をうまくやる気なのか分からないザザにティスはひそめた声で言った。
「…………でもオルバン様は、あの、オレを……、あの方の許しなく、その、した人を、ほとんどみんな、殺してしまうので……」
ザザは黙った。
黙ったまま、静かに、ティスから離れた。


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