炎色反応 第六章・17
唯一自由なはずの声帯にまで、イーリックの強い視線が絡み付いて来る。
喉に何かが詰まったようで、抵抗の言葉すら口から出せない。
「それじゃ、邪魔者は消えるとしようか」
またにこっとしてカービアンは言った。
そして彼は、くいと軽く何かを引っ張るようなしぐさをする。
ティスの全身に違和感が走った。
目に見えない何か細いものが、腕や足からするすると抜け出ていく。
途端に体が自由になったのが分かり、彼は思わずほっと息を吐いた。
「ヴィントレッド、ザザ、行くよ。ではイーリック、詳しい報告は後ほど」
「ええ」
それは晴れやかな笑顔でイーリックはうなずく。
カービアンも微笑み返し、床の上を滑るような軽やかな動きで歩き始めた。
ヴィントレッドは何やら不満そうだったが、かたわらのザザの背を大きな手で叩くと痛がる彼を引きずって室外へと出て行った。
***
「まずは、きれいにしないとね。あいつに汚された痕跡を、全部消さないと」
二人きりになった途端、イーリックはそんなことを言い始めた。
それを聞いて、ティスはびくっと大きく身を震わせる。
おそらくは風と思われる魔法の支配から抜けたばかりの体には、まだ妙な違和感が残っていた。
だけど今は、そんなことを気にしている場合ではない。
「イーリックさん……」
声にならない想いを込めて、ベッドの上に座ったままティスは彼の名を口にする。
するとイーリックはその隣に腰を下ろし、そっと肩に手を回して来た。
瞬間ティスは身を硬くしたが、細い肩を撫でる指先に性的なものは感じられない。
「少し痩せたね……かわいそうに」
心のこもった声だった。
なぜ、ディアルと同じ台詞が今の彼の口から出るのだろう。
悲しい偶然の一致に泣いてしまいそうになる。
自分の知るイーリックの部分もまだ、ちゃんと今の彼の中に残っているのだと思うと切ない。
勝手を言っているのは承知しているけれど、どうしてもこう思ってしまう。
弟のように愛してくれる、それだけで良かったのに。
「ティス……」
うつむくティスの顎に、またイーリックの指がかかる。
三色の精霊石が視界の端をかすめ、あっと思った時には彼の方を向かされていた。
瞳を閉じたイーリックの顔が迫ってくる。
唇を唇で塞がれ、同時にきつく抱きすくめられて、ティスは息苦しさにもがきながら体を硬くしていた。
「んっ……、ふ」
舌先が、懸命に噛み締めようとする唇の隙間をくすぐる。
口腔への侵入を必死で拒もうとしていたティスだが、イーリックの胸元で突っ張っていた指に不意に違和感を感じた。
「んっ……!?」
何かが体の中に入って来る。
さっきカービアンによって抜き取られた、感触だけの見えない糸のようなもの。
それがティスの腕に入り込み、勝手に体を動かしてしまう。
力が抜けた腕がかくりと折れ、より深くイーリックに抱き寄せられた。
驚いた拍子に緩んだ口の中にも舌が入り込んで来る。
「んぅ……、ん、ん」
濡れた舌を強引に含まされ、口の天井部分をぴちゃぴちゃと音を立てて舐められる。
敏感なそこを刺激されると、躾のいい体はびくびくと反応を返してしまった。
「ん、んんッ」
自由にならない体の胸元に、イーリックの指が触れてくる。
かすかにとがり始めていた乳首を、その指は簡単に探り当てた。
「んっ……、はぁ……」
布越しにいじられる、もどかしい刺激がたまらない。
そんな風に思う自分が嫌で、ティスは果敢に抵抗を試みる。
しかし、本人の意思から離れた腕に力を込めようとするとさっき味わった激痛がまた襲いかかって来た。
「いっ……!」
口を塞がれた状態で叫んだティスから、イーリックは唇を離して言う。
「だめだよ、ティス……暴れないで」
たしなめるようにつぶやく彼の指先で、緑の光が光っていた。
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