炎色反応 第七章・3
あんまりな台詞に、涙目で彼を見つめる。
潤んだその瞳に、だがイーリックは嬉しそうに笑うだけだ。
「してって言って……ほら」
「ヒアッ!」
彼の手がティスに入っている棒を掴んだ。
貫かんばかりに奥に入れられ、繰り返し突かれるたび泡立った精液が尻肉を伝い落ちる。
冷たい金属による非情な陵辱を、でもしつけられた肉は食い締めて悦びを感じてしまう。
「やっ……抜いて、やだ、嫌ぁ…………」
「じゃあ、ほら」
足の固定を魔法に任せ、イーリックはもう片方の手で先程抜いた肉棒を尻の盛り上がりに当てた。
人肌の温もりを感じた途端、そこがぞくっとする。
「やっぱりこっちの方がいいよね? ティスは……」
分かりやすい反応にまた微笑みを浮かべ、イーリックは濡れた先端を擦り付けて来た。
「してって言ってごらん。僕が欲しいって………」
ぽろぽろと涙を零しながら、ティスは観念して瞳を閉じる。
その唇からやがて漏れた「して」の一言を聞いて、イーリックはそれはきれいに笑った。
「はっ…………、あ……」
大量の白濁を中に吐き出されながら、絶頂の余韻に打ち震える。
待ち侘びていた熱の放出に肉体は歓喜の声を上げ、けれど心はひどくみじめで情けない。
「…………すごく良かったよ、ティス」
満足そうにつぶやいて、イーリックはゆっくりと自身を引き抜いていく。
その動きにつれて、ぐずぐずに溶けたような穴からとろりと精液が流れ出した。
強張っていた足を縛り付けていた力が解かれる。
手首の戒めも解かれ、そこを暖かな水流が撫でるのが分かった。
水の魔法がティスの全身を包み込み、全ての痛みを拭い去ってくれる。
けれどまた、イーリックのくれる快楽に逆らえなかったことだけは残る。
せっかく体だけは自由になったが、それを思うとすぐに起き上がる気持ちになれない。
素裸でベッドの上に四肢を投げ出した格好のティスは、半分瞳を閉じたまま虚ろに窓の外を見ていた。
「ティス、疲れた?」
結局夕べから寝ずに犯されていたのだ、疲れていることは間違いない。
何を今更、という気もするが、行為を終えたイーリックの声には本気で心配そうな色が含まれていた。
「ごめんね。久し振りに会えたから無理をさせたね……」
大きな手が優しくティスの小さな頭を撫でる。
温もりに眼の奥がつんとして、危うく泣いてしまいそうになった。
この人はもう、自分の知っている兄のような人ではない。
分かっているけど、行為の最中と事後の余りの差異に決まってティスの心はぐらついた。
「…………なんで?」
無駄とは知りながら、言葉が口を突いて出る。
「イーリックさんは、魔法使いなんかじゃなくてもすごく強くて、かっこ良くて、優しくて……こんなこと、しなくても…………」
「でも君は、あんな魔法使いのことが好きなんじゃないか」
彼の声にさっきまであった優しさが消えた。
びくりと震えて見上げた顔が近寄って来る。
「…………ンッ……」
強く敷布に押し付けられ、深く唇を合わせられて舌を差し込まれる。
口腔の天井を舌の先で突付き回され、ぴくぴくと体が跳ねてしまった。
「好きだよ、ティス」
唾液の糸を引きながら舌を抜かれ、息を荒げているティスにイーリックは心を抑え付けるような声で言う。
「君も早く、僕のことを好きになって。そうしたらもっと自由にさせてあげるし、もっと……気持ちいいことをしてあげるよ」
切れ長の瞳に吸い込まれたように身動き出来ない。
震えることも出来ないティスに、イーリックはまたにっこりと優しく笑った。
彼もティスといっしょに徹夜明けだ。
何度も快楽を極めていることも同じだし、その上魔法だってたくさん使っている。
だがイーリックの整った顔にはさほど疲れた様子はなく、せいぜい眼の下に薄いくまがあるぐらい。
こんなところまでオルバンと同格になっているのかと思うと、すごいと思うより恐ろしさが先に立つ。
風のグラウスは一体彼に何をしたのだろう。
「さて、僕はそろそろ行かなきゃ。今日中には戻れると思うけど、はっきりしたことは分からないんだ。ゆっくり休んでおいで、ティス。ご飯をちゃんと食べるんだよ」
ちゅっと音を立て、今度は鼻先にかすめるような口付けをされる。
身支度を整え、イーリックが部屋を出ていくのを見送ってからティスは深い深い安堵の息を吐いた。
←2へ 4へ→
←topへ