炎色反応 第七章・5



そうだ、ザザはオルバンに復讐しようとやって来たのだ。
拉致されてすぐに顔を見た、あの時すでに彼はグラウスの許しを得ていたのだろう。
あの時はイーリックの登場に心奪われ、きちんと確認しなかったことが悔やまれる。
元々敵だったはずなのに、どこか憎めない個性を持つ魔法使いに親近感を感じていた。
三人旅に何となく馴染んでしまい、今の今まで本気で彼の身を案じていた自分が恥ずかしい。
「ははは、なんだなんだ、迎えに来た、とオレが言ったのを聞いてなかったか? 兎ちゃん」
ひたすら恥じ入るティスを尻目に、ヴィントレッドは随分機嫌が良さそうだ。
刺々しかった先程までの雰囲気がなくなり、粗野だが明るく陽気ないつもの笑顔になって彼は言った。
「全く、しょうがねえお人よしだな。ザザに情が移ったのかい」
「だ、だって…………グラウス様という方は、ザザ様に、その、ひどいこと……」
話に聞くグラウスという魔法使いは、仕方がないとはいえしばらくはオルバンと行動を共にしていたザザに何もしないとは思えなかった。
実になる情報はほとんど持っていなかったが、ザザは王宮近隣までオルバンを導いてやって来たのだ。
「ああ、カービアンに脅されちゃいたけどな。それだけで相当ぶるってたし、グラウス様はあいつの仕置き程度で顔を出したりしねえよ」
ふざけたような様付けでグラウスを呼ぶヴィントレッドの言う通り、恐ろしい風の魔法使いはめったなことでは人前に顔を出さないらしい。
ティスもしばらくここにいるが、未だにその顔を拝んだことはない。
ただ、彼は君に興味があるようだといつかカービアンは言っていた。
その内呼ばれるかもしれないね、そうつぶやいたもう一人の風の魔法使いの瞳の奥で揺らめいた光。
穏やかで優しげな、一見どこにでもいるありふれた人間の青年にしか見えないカービアン。
だがその瞳の底にはオルバンらと同じものを隠し持っている。
力と自信、そして自尊心。
オルバン同様、カービアンもまたたやすく誰かに膝を折るような男ではないとティスは直感的に感じていた。
もちろんこの、風来坊然としたヴィントレッドも。
つまりはそれだけの能力と求心力をグラウスは持っているのだ。
考えながら彼を見上げていたティスは、赤い瞳もまたじっとこちらを見下ろしていることに気付いた。
「どうした兎ちゃん、ちょっとこの辺が腫れてるぜ」
武骨な手が、寝不足で薄赤くなった目元に触れてくる。
「イーリックの野郎に随分可愛がられてるらしいが……涼しい顔してあの野郎、相当なむっつりすけべだな」
また皮肉っぽい口調になった彼の指は、そのまま頬を滑り唇に辿り着く。
身の危険を感じ、とっさに逃れようとしたティスだが遅かった。
「ヴィンっ…………!? だ、だめです、だめっ……!」
大きな体が乗りかかってくる。
なけなしの防御壁だった掛け布団を呆気なく剥かれ、ティスは素裸のままで大柄な男に組み敷かれてしまった。
「……ここも腫れてるぜ」
いやらしく笑った唇が、かすかに膨らんだ乳首に寄せられる。
イーリックに吸われ、舐められてまだ赤らんでいる乳輪を厚い舌がざらりと舐め上げた。
「あっ……」
ぴくんと身を震わせ、濡れた声を上げてしまうティスに気を良くしたか彼は続けて乳首を吸い上げ始める。
「嫌、だめっ……あ、あ、んっ…………」
抵抗しようとしても、強い力に押さえ付けられわざとのようにちゅうちゅうと音を立てて吸われる。
強引そのものの愛撫はなぜか懐かしくも思えて、こんな時なのに胸が締め付けられるのを感じた。
「相変わらず感じやすい」
煩悶するティスの乳首を指先でもてあそびながら、顔を上げたヴィントレッドは低く笑う。
その指に光る赤い指輪が、更に胸を締め付けた。
イーリックはきっとわざとだろう。
火の精霊の指輪だけを持っていない。
この石を持った男にこんな風にされるのは、久し振りすぎて胸が痛い。
「あいつはどんな風にするんだ? え? ティス。お前を悦ばせるために、わざわざ似たような背格好のガキを抱いて練習に励んでたらしいがなぁ」
そんなところまで努力家でいらっしゃる、と鼻を鳴らして言ったヴィントレッドは、摘んだ乳首を指の腹で転がしながら言った。
「お前を満足させようと思えば、それぐらいしなきゃならねえかもしれないが…………だが淫乱兎ちゃんを独り占めはずるいぜ。第一兎ちゃんには飼い主が…」
にやにやしながら続けようとした言葉を彼は突然中断した。


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