炎色反応 第七章・6
ばちっ、と空気が鳴る激しい音がして、小さな雷のようなものが天井付近に走る。
びっくりして身を起こしたティスの上、ヴィントレッドはさも不快そうな顔付きになると、胡乱げな瞳を戸口に向けた。
「何だ、無粋な野郎だな」
露骨に不機嫌な低い声を間近く聞きながら、彼と同じ方を向いたティスはそのまま動けなくなってしまった。
銀の胸当てを付けた金の髪の若者が、凍り付いたような無表情でそこに立っている。
先程出て行ったはずのイーリックの存在に、冗談事ではなく体感温度がすっと下がった。
「ティスから離れて下さい」
全く抑揚のない声で言ったイーリックの指先で、水と風の石が輝き始める。
冷気の乗った風が吹いて来た瞬間、ヴィントレッドも火の精霊石に力を送ったようだ。
熱で出来た膜が、薄い黄色に光りながら彼の周囲を防御すべく展開する。
だがその被膜は、イーリックの攻撃を完全には防げない。
寒波をまともに浴びることこそなかったが、ヴィントレッドの長い髪の先が一瞬凍り付いた。
「……チッ」
短く舌を鳴らした彼がぶるっと頭を振れば、氷はたちまち砕けかすかな水蒸気を残して消える。
しかしこのまま本気の戦闘に突入するかと思いきや、ヴィントレッドはひどくあっさりとベッドを降りてしまった。
「ティス」
逆に驚いたティスを肩越しに振り返った彼は、戸口の方へと歩いて行きながら言う。
「レイネはお前と同じさ。リオールに毎日めちゃくちゃになぶられて、さすがの気の強い美人もぐったりしてるな」
ザザの件でつまずいて流れかけていたレイネの近況を聞き、ティスは戦慄を覚えた。
数多くの男たちを受け入れ続け、いつしか諦めの境地に入って来た自分と彼は違う。
潔癖症の気がある上に、一人の魔法使いとしての自尊心も兼ね備えている美しいレイネ。
同じ水の魔法使いでありながら、最悪の形で道が別れてしまったかつての友に嬲られる屈辱にそう長い間耐えられるとも思えない。
青ざめるティスの顔を妙に真面目な顔で見たヴィントレッドは、くっと口の端を上げて笑った。
「人のことより自分のことだろ、兎ちゃん。ザザの件といい、お人よしなんだか抜けてるんだかな。ま、そこが可愛いとこじゃあるが」
からかうように笑うと、彼はきつく自分をにらみ付け続けているイーリックの脇を通り過ぎていく。
途中までは完全に強い視線を無視するかに思えたヴィントレッドだが、最後の最後で一瞬だけイーリックの方を向いた。
「元いいおにいちゃんの調子によっちゃ、兎ちゃんは案外早く解放されるかもしれんがなぁ」
二人の魔法使いの視線が絡んだ場所で、見えない火花が散る。
剛毛を揺らし、火の魔法使いは大股にその場から去っていった。
意味深長な言い回しに込められた何かに引き寄せられるよう、じっと彼を見送っていたティスの側にゆっくりとイーリックが近付いて来る。
はっとして彼を見上げれば、それは冷たい瞳がこちらを見下ろしていた。
「…………油断も隙もないな」
腕に見えない何かが絡み付く。
声も上げられず、ティスはいきなり真後ろに引き倒された。
「ちょっと目を離すと男をくわえ込んでるとはね…………仕方のない子だ」
***
「…………ぅ……」
ぐったりとベッドに横たわったティスは、瞳を閉じてか細い息を吐いている。
ひとまとめに枕元の柱にくくり付けられた手首がひりひりするけれど、そこ以上に酷使された後ろの穴が痛い。
ふやけるほどに舐め回され、指でいじられてから貫かれるのが常となっていた部位を、イーリックは乱暴に貫き自分勝手に性欲を吐き出していった。
嫌がって泣き喚くティスの口に、彼は引き裂いた敷布を押し込み声さえも上げさせてくれなかった。
「すごく締まるよ、ティス」
くぐもった声しか上げられないティスを背後からめちゃくちゃに突きながら、彼は暗い声でつぶやいていた。
「入れられてはないみたいだけど……それとも、僕にひどくしてもらいたかっただけ?」
陰惨な笑い声を遠く聞きながら、奥に注がれる熱い液体を感じていた。
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