炎色反応 第七章・16



優しい声音でひどい言葉を吐いた彼は、的確にティスのいいところを突き上げ始めた。
頂点を迎えられない快楽が、痛みさえ伴いながらどんどんせり上がっていく。
「やぁ……ンッ、だめ、だめ…………っ」
手を伸ばし、束縛された性器の解放を試みてみても、圧し掛かられた格好では圧倒的に不利だ。
何より、触れたイーリックの手にある冷たい指輪の感触がティスをはっとさせてしまう。
だめだ。
抵抗出来ない。
彼に魔法を使わせるわけにはいかない。
「……言って、ティス……」
残酷な行為とは裏腹に、イーリックの声には懇願の響きがある。
「好きだって言って……お願いだよ…………」
最早哀願と言っていい彼の言葉から耳をふさぎたい。
いっそ何もかも振り捨てて、どこか遠くに逃げてしまいたいとさえ思った。
なんでこんなことになってしまったのだろう。
追いかけて来てくれたと知った、あの時は血の気も引いたがやっぱり嬉しかった。
だから二度目に完全に彼の意志で犯された時は、あまりの衝撃に身も凍る思いをした。
あの時、文字通りの命がけでオルバンからイーリックを救ったのは、せめて彼にだけは元の生活に戻って欲しかったから。
間違っても魔法使いになってまで助けて欲しかったからじゃなかった。
何よりあの頃と今では、ティスの中のオルバンの像は微妙に変化している。
ただただティスを性的に搾取するだけの暴君だった彼の隠された一面。
ディアルを始めとする他の魔法使いとの関わりにより、知ることとなったそれらのことがティスの気持ちを変化させた。
好きだとは、まだ言えない。
オルバンだって自分のことを好きなわけじゃないだろう。
名前のない、不安定な、だけどこの上なく強い力で引き寄せられてしまう。
離れている時間が長くなればなるほど、そう思い知らされていく。
オルバンに会いたい。
だけど、イーリックにだって死んで欲しくない。
両立しない願いをどちらも手放せない、きっと自分がわがままなのだ。
そうと分かっていても、震える唇を開いたティスの瞳には涙がにじんでいた。
「…………好き……」
小さな一言を聞きとめたイーリックの動きが止まる。
彼の望む言葉をようやく口にしてくれた、少年の瞳からはぽろぽろと涙が零れ落ちていた。
「イーリックさんのこと、好き。大好き。子供の頃からずっと遊んでくれて、大人になったらあなたみたいになりたいって思ってた。大好き……」
ずっと逸らしっぱなしだった視線を兄とも思っていた彼に合わせ、ティスは心を込めてそう言った。
こうやって好きだと言う、その気持ち自体に偽りはない。
イーリックの望むような想いではなくても、彼が好きなことに変わりはない。
だから余計に辛い。
「好きなだけじゃだめ……?」
身の内にはまだ、イーリックのものが深々と入っている。
意識しない訳にはいかないものに切なく息を乱されながら、ティスは潤んだ瞳で訴える。
「どうしても…………しないと、だめッ…?」
しばし、イーリックはひどく切なそうな目になって自分の下になっている少年を見つめた。
夜の風に自然に散らされた花びらが、重なった二人の上にほろほろと降り注ぐ。
「―――ごめんね」
悲しそうに言ったイーリックの指で、幾つかの色が輝く。
「あっ……!?」
絶望の声を上げるティスの肌の上で、銀の飛沫が跳ねた。
いつかも見た水の触手。
月明かりに恐ろしいほど美しくきらきらと輝き始めたものたちが、鎌首をもたげティスの体のあちこちに絡み付く。
「イーリックさん、魔法は……んぐぅっ……!」
慌てて叫ぼうと開いたティスの口の中に、一本の触手が頭を突っ込んで来る。
言葉を封じると同時に、それはなめらかな感触で口腔を愛撫し始めた。
「んん…………、ん、んん……っ……」
同じ感覚がイーリックに満たされた体の内部にも潜りこんで来る。
上下の口の中をなぞり上げるように舐め回されると、ティスの眉根は悩ましく寄ってしまった。


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