炎色反応 第七章・24
形良い唇を歪め、リオールはレイネだけをにらみ付けて冷ややかに笑った。
「全く、しょうがないな、レイネは。そんなにオレにお仕置きして欲しいのか?」
「リオール……」
震える声で言ったレイネが、悔しそうにザザを見下ろす。
罠だったのかと、彼の瞳はそう言っていた。
ティスもまた、まさかの思いを込めてザザを見上げようとしたが、その時赤い光が室内を走った。
発生源はザザだ。
「おっとっと」
すぐさま手を前に突き出したヴィントレッドが、熱光線を大きな手の平に難なく吸収する。
明らかな反抗を示したザザを、彼は哀れむように見て言った。
「馬鹿だな、血迷いやがって。お前みたいな小物なら、今の時点で泣きを入れればまだ気の迷いで済まされたかもしれないんだぜ?」
一時は相棒だったこともある男を見つめ、ザザは果敢に吠える。
「オレ、オレは知らされてなかったぞ! 魔法使いになった人間が、自分の命を削ってるなんて……!」
「ああ、何だそんなことか。いいじゃないか別に、お前には関係ないだろう」
事もなげにヴィントレッドはいなすと、今度はティスを見て言った。
「しかし兎ちゃんも学習しねえな。これで三度目だろう、逃げ出すのは…………やっぱりイーリック程度のお仕置きじゃ、学ぶ気になれないか」
ふん、と小馬鹿にしたように鼻を鳴らし、彼は今度は風の石を光らせた。
ティスの耳元で風がうなりを上げる。
「うわっ……!」
思わず目を閉じ、自分を抱きすくめた彼が次に目を開いた時身に付けていた寝巻きは半分以上引き裂かれていた。
元から下着は身に着けていない。
袖と胸の一部だけを残して全裸にされたティスの腕を、強い力が掴む。
驚いてそちらを見ても誰もいない。
だが笑うような息遣いと、何よりこの状況に覚えがあった。
「ヴィントレッド様、嫌だ……!」
確か陽炎という魔法だった。
姿を消す、というある種究極的な火の魔法。
「覚えていてくれて光栄だな、兎ちゃん」
案の定、背後から聞き慣れた声が聞こえて来た。
「カービアンに聞いたらしいが、この調子じゃイーリックは長くはもたない。オルバンやディアルが例え来たところで、オレたちに勝つことは出来ない」
くすくすと笑いながら、彼は嫌がるティスの耳たぶに奇妙に優しい口付けをしてから言った。
「そうなりゃ兎ちゃんの飼い主はオレしか残らないだろう? 安心しろよ。淫らで貪欲なお前の体を、このオレ様がたっぷり満足させてやるよ」
見えないヴィントレッドの、分厚い手の平が乱暴にティスを引きずり上げる。
天井からぶら下がっていた鉄の輪が手首に触れる。
あっという間に両腕にそれがかまされ、ティスは爪先が床に付くか付かないかぎりぎりのところで宙吊りにされてしまった。
「ティス!」
叫ぶレイネの側に、滑るようにリオールが近付いていく。
その手にはどこから取り出したのか、よくしなる細い鞭が握られていた。
「新しい趣向だな、レイネ」
細い眉の下、青い瞳が舌なめずりせんばかりに美貌の水の魔法使いを見つめている。
「人間の子供といっしょに、お互いに犯されるところを見られて……気の強いお前がどこまで耐えられるか、見物だ」
加虐的な一言に、レイネのみならずティスまでぞっとした。
悲しいことに見られることにはある程度慣れてはいるが、それでもそんなことが好きなわけじゃない。
まして、自分をこれから嬲ろうとしているのはオルバンではなくヴィントレッドである。
「いや、嫌だ、やっ……!」
叫びも虚しく、続いて両足を持ち上げられた。
大きく開かれた足首にも鉄の輪が食い込む。
恥ずかしい部位を全てさらした状態で、ティスは天井から吊るされてしまった。
「う、う……」
四肢に食い込む金属が、薄い肌にこすれて痛い。
しかしそんなことは、丸見えの小さな穴の縁を無遠慮に広げられた羞恥にすぐに消し飛んでしまった。
「おやおや、おさかんなことだ。まだ中に残ってるじゃないか」
ヴィントレッドの言う通り、イーリックは全身を拭ってはくれても中出しの始末まではしていかなかったらしい。
注がれた精液がとろりと零れ出し、ティスは顔を真っ赤にした。
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