炎色反応 第七章・37



「んんっ……!」
「ザザもがんばったな。ああ、ひでえ、ぐちょぐちょだ」
太い指が、立て続けに二人の男に犯された穴をかき回す。
内股を伝う精液の感触に震えるティスの耳たぶを甘く噛んで、ヴィントレッドは続けた。
「これで分かっただろう? 逃げ出そうとしても無駄。淫乱兎ちゃんは成り上がり魔法使いなんざに満足させられないってこともな」
またイーリックを馬鹿にしながら、ヴィントレッドは腕の中で震えるティスの体をいじり回す。
「さて、今度はどうするか」
またも良くないことを考えているに違いない言葉に震え上がるティスだが、ふとヴィントレッドは後ろを振り返った。
半開きの扉の向こうに中肉中背の青年の顔が覗く。
王宮付きの学者と言っても違和感のない、カービアンが穏やかな笑みを浮かべて室内に入って来る。
「おや、楽しそうじゃないか」
精液まみれのティスとレイネ、ついでにザザまでもその一言で片付け、彼はにこにこしながら言った。
顔を強張らせる三人を眺め回し、カービアンは平気な顔で質問をする。
「イーリックはどうしたんだい?」
「さあ? とうとうくたばったんじゃないのか。兎ちゃんの三度目の逃亡を見逃すぐらいだからな」
悪意のこもったヴィントレッドの答えにも、カービアンは笑顔を崩さない。
遠いどこかを見回すように視線を巡らせた彼の指先で、一瞬緑の光が輝いた。
「ああ、だからか。レミーといっしょにいるようだね」
自分だけ状況を汲んだらしいカービアンは、思わせぶりにヴィントレッドの腕の中のティスを見る。
「しょせんは彼も人間か…………やれやれ。まあいいんだけどね、私はどっちでも」
どっちでも、という言葉に我知らずティスの表情は曇る。
昨夜のイーリックのことが思い出され、胸がちくりと痛んだ。
視線を伏せてしまうティスのあごを、背後のヴィントレッドがいきなり持ち上げる。
「……ンッ…………!」
上から覆い被さるような強引な口付けだった。
厚い舌をねじ込まれ、くちゅくちゅと音を立てて吸われると呼吸もままならない。
「ふう……っ、んっ…………あ、ぅ…………」
ただでさえ体力の消耗が激しいのだ。
立っていられなくなりそうで、ヴィントレッドにしがみ付くと彼はやっと口付けから解放してくれた。
「ご主人様一途なところがオレは気に入ってるんだぜ、兎ちゃん。人間野郎が生きようが死のうが、一々反応するんじゃねえよ」
間近で吐きかけられる低い声には侮蔑が混じっている。
「ましてあいつは、てめえの命まで賭けて兎ちゃんを犯したがってるろくでなしだろう。兄代わりか何か知らないが、今更同情の余地があるか?」
それは確かに、ヴィントレッドの言う通りだ。
イーリックが自分にした数々のことは許されることではないだろう。
けれど別に、ティスはいい子ぶってイーリックの身を案じているわけではない。
この期に及んでまだ、優しい兄だった彼のことを忘れられないだけ。
ごめんねと、夕べ確かにイーリックは言った。
切ない響きは耳の底に残っているのに、どうして心配せずにいられるだろうか。
「全く、淫乱の上に浮気性の、どうしようもねえガキだな」
悲しげな顔をやめないティスを見下ろしたまま、ヴィントレッドは呆れたようにそう言った。
だが彼の顔からは、先程までの険しさは薄れている。
むしろティスのかたくなさを面白がるような、そんな表情になり始めていた。
「いっそイーリック、ついでにレミーもここに呼んでやるか」
突然の言葉にぎょっとするティスの上で、ヴィントレッドはにやにやしながらカービアンに提案した。
「そうだそうだ、それがいい。可愛い兎ちゃんが輪姦されるのを見て、あの取り澄ました男がどんな醜態をさらすか見物じゃねえか……ついでにあいつの仕込んだ偽物兎ちゃんも、ちょいと味見させてもらってもいい」
レミーまで犯す気なのか。
どこまでも貪欲で傲慢なヴィントレッドの言葉に、カービアンはこれまた平然と笑って同意する。
「そうだね、イーリックが本気で君と対決した時どれぐらいの力が発揮できるか興味がある。では私が彼らに伝言を送ろう」
そう言うと、カービアンはふわりと右手を掲げた。
風の精霊石がその指先で輝く。
「やめて下さい!」
顔色を変え、思わずティスは叫んだ。


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