炎色反応 第七章・38



「やめて下さい、イーリックさんにこれ以上力を使わせないで! しっ、死んじゃうっ……!」
必死のティスの瞳を、カービアンは微笑んで見つめ返す。
一見暖かな、人の良さそうな笑顔だ。
だがその目をまともに見た途端、ティスはヴィントレッドから受けるのとは別種の恐怖に身動き出来なくなってしまった。
「だったらなんで、イーリックのところから逃げ出したりしたんだい? 彼がどれだけ君のことを好きか分かっているだろうに」
掲げた指先から、見えない波動が一陣の風となり室外へ飛び去っていく。
言うまでもなく、イーリックへこの場で起こっている事態を知らせるためのものだ。
「イーリックがどうなろうと心配ない。このヴィントレッドも大層君にご執心だからね。オルバンと同じぐらい可愛がってくれるさ」
今なお姿を見せる気配のない、主人の名前を出されるとティスの胸は冷たくうずいた。
だが悠長に気落ちしていられる状況ではない。
「あっ……!」
皮膚を通し、体内に何かが入って来る違和感。
それまで抵抗こそしなかったが、ヴィントレッドを拒んで微妙に入っていた全身の力が勝手に抜け落ちた。
今やティスの自由になるのは自分の心だけ。
ヴィントレッドがするように腕力での力ずくではなく、それゆえに何倍も恐ろしい風の魔法をカービアンが使い始めたのだ。
「さあ、ティス」
にこにこしながらカービアンは命じる。
「新しいご主人様のご機嫌をしっかり取らないとね」
膝が折れ、視界が下がる。
ぶるぶると震える手がヴィントレッドの、まだ出しっぱなしの男根に触れた。
「や、や…………」
何をさせられるか察知し、怯えるティスをヴィントレッドは面白そうに見やる。
「そういえば兎ちゃんにしゃぶってもらったことはなかったな。いいぜ、可愛いお口でたっぷり楽しませてもらおう」
「あぐ…………ッ、ふ、ん、う……」
声を出せないほどに開かされた口の中に、ヴィントレッドは自ら己の物を突っ込んで来る。
「ンンーっ……! むぐ、くっ……んふっ…………」
強引に頬張らされたものはくわえるだけで一杯一杯だ。
見えない糸に支配された恐怖ですくみ上がっているところにこれでは、しゃぶるどころの話ではない。
「舌はねえ、結構扱いが難しいんだよね」
指先で緑の石を輝かせながら、カービアンは口での奉仕を強要させられるティスを見てつぶやく。
「ちゃんと舐める気がないのなら、そっちも私がさせてあげてもいいよ? 加減を間違えたら大変なことになるかもしれないけど、私はどっちでも」
またどっちでも、だ。
目尻に涙を浮かべながら、ティスは諦めてさっきまで自分の中にも入っていた肉棒を何とか吸い上げる。
「いいぜ、兎ちゃん。いい眺めだ」
指に心地いいなめらかな金髪を撫でながら、ヴィントレッドはティスの技術を楽しんでいた。
その時彼らの背後、何とか上体を起こしたレイネの口から短い悲鳴が上がった。
「なっ、なに……!」
「レイネ、君もね。そろそろいい子になるかと思っていたのに、この期に及んで逃げようとするとは残念だよ」
優しげなカービアンの声も今のレイネには届かない。
いきなり勝手に体が動き、自らリオールの側へと寄っていってしまうのだ。
しかもヴィントレッドと違い、いったん衣の中へとしまわれた彼の性器を指先がまさぐり取り出してしまう。
「そろそろ腹を決めて、ティス同様ご主人様への奉仕の心を持ってもらおう。そうすれば、リオールのおもちゃ程度の扱いで勘弁してあげてもいいよ」
十分ひどい扱いだと思うが、それを拒否すれば今度は不特定多数、それも飢えた人間の男たちの慰み者だ。
しかも拒む意志を示すことすら、風の糸に操られる人形と化した今のレイネに出来はしない。
「レイネ……そうか。面白い趣向だ、カービアン」
始めは驚いていたリオールも、展開を読んでにやりと口の端を歪めた。
「ふふ、全部飲むまで許してやらないからな」
たちまち力を蓄えた性器を、ティスと同じく口を開けさせられたレイネの唇の中に挿入する。
息苦しさにむせる青年の後頭部を掴み、腰を揺すってリオールはそのなめらかな感触を味わった。


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