炎色反応 第七章・57
「だからその…………、火の石を、都合してあげるとか……、だ、だめですかね……?」
「こいつもグラウスに従った馬鹿の一人だ。さっきレイネが言ったように、火の長の処分待ちの身だぜ」
ぬけぬけとそんなことを言ったオルバンだが、思い出したように暗い顔になったザザを見て続けた。
「だがまあ、お前にしては小ましなことをやったようじゃないか。ならディアルたちを追って行け。あいつらなら、お前にも優しくしてくれるだろうよ」
そう言いながら彼は、黒衣の懐に手を入れる。
「そら、不細工な体をこれで隠していけ」
ばさりと音を立て、宙を飛んだのはいつかディアルがティスにと与えてくれた布だ。
魔力を帯びたその布を頭から被り、ザザは非常に驚いた顔をしている。
「お、お前が、こんなこと…………」
「目障りなんだよ。貧相な上に精液まみれの、みっともない体をいつまでオレの目に映す気だ? それともお前も、灰の塊にされたいか」
グラウスの最期を思い出したか、ザザはぞっとしない顔になる。
魔力を帯びた黄土色の布地を体に巻き付け、彼は小走りにディアルらを追って走り出した。
「…………ティス! オレの代わりにそいつにいじめられといてくれよ!」
何やら複雑な感情の織り込まれた言葉を残し、ザザの姿も徐々に小さくなっていく。
少し寂しい気持ちすら覚えてしまったティスを抱いて、オルバンはまた歩き始めた。
遅ればせながら、後にして来た王宮の方が騒がしくなってきた。
グラウスの死による動揺が表に出始めたのだろう。
しかしオルバンの関心は最早そのことにはないようだ。
すたすたと普通に歩き、ある程度森の奥まで分け入った。
背の高い木々の上から、真昼の光が降り注ぐ。
内一本の大きな木の、浮いた根の狭間へと彼はティスを降ろした。
「初めて会ったのも、森の中だったな」
初対面の時から変わらない、気まぐれで傲慢なそれゆえに魅力的な笑顔がティスを見下ろす。
「オルバン様……お、お手間を取らせて、申し訳ありません…………」
今更のように、ティスはしどろもどろにつぶやいた。
「手間? ああ、お前を取り返したことか。こんなものが手間の内に入るか」
最強と噂された風の魔法使い、グラウスを倒したことさえ手間に入らないと彼は言い切る。
実際は風の石を身につけて戻ったりと、それなりに手間を取っているはずなのだがなにせ相手はオルバンだ。
能力と比例して自尊心もべらぼうに高い男には、「手間取らせた」と謝罪することさえ機嫌を損ねることになりかねない。
下手に突付いてはまずいと思いながらも、ティスはびくびくと言葉を続ける。
「それにっ………あの…、イーリックさん、殺さないで、下さって……」
イーリックの名前に、オルバンは軽く鼻を鳴らす。
「まだあいつのことをぐだぐだ言うか。全く、殺さないでおいて正解だったな」
彼の指先が不意にティスの顎を掴む。
強引な口付けを予測し、半ば期待して目を閉じたティスだったがオルバンがそれ以上触れてくる様子はない。
「どうした、物欲しそうな顔をして」
その言葉に瞳を開けば、金の瞳が意地悪く光っている。
「取り返すのは当然だ。お前はオレの持ち物なんだからな。だがなティス、お前はさらわれた先でもまた随分な淫乱ぶりを披露したんだろう?」
イーリックから受けた休みない陵辱、ヴィントレッドにレイネやザザといっしょに嬲られたこと。
恥辱の記憶がオルバンの一言で蘇り、かっと赤らんだ頬を滑り彼の指は離れていく。
「許可なくご主人様以外の男と楽しんだ罰を与えないとな」
含み笑いをしたオルバンは、腕組みをしてゆっくりと背後の木にもたれた。
「今日はオレは何もしてやらないぞ。全部お前がしろ。オレをその気にさせることが出来たら、入れてやる」
ぞんざいに顎をしゃくっての命令に、ティスは呆然としてしまった。
立ったままのオルバンの衣の前を開き、面白そうに見つめる瞳を意識しながらひざまずく。
まだ何の反応も示していないのに、長さも太さも十分すぎる彼の肉棒がすぐに目に飛び込んできた。
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