炎色反応 第七章・60
「嘘をつくなと言っただろう?」
鼻を鳴らし、オルバンはまたティスの耳元に唇を寄せてささやいた。
「乳首をいじるのは、そうするのが気持ちいいからだ。お前はどうしようもない淫乱だからな」
そうだろう? とささやかれれば、かあっと頭に血が昇る。
「あ、ンッ…………、は、い、そおです……、オレ、淫乱で…………乳首…………気持ちいい、です……」
そう言うティスの指先は、いつしか自分の乳首をつまみ上げ、撫で転がし、押し潰すような動きを繰り返している。
片方だけでは足りないのか、左右の胸を順繰りに攻めるその動きはどうしようもなく浅ましく淫らだ。
「ここもな」
続いた言葉に、悩ましく眉を寄せながらティスはうわ言のような声を出した。
「はっ……い、オレっ……、オレの、ここっ…………扱いてっ……いいっ、のぉ…………」
粘着質な水音を立てて性器を扱く度、絶頂感が高まっていく。
だが今にも達しそうになっているティスに、オルバンはこうささやいて来た。
「だが、お前が一番好きなのは違うところだろう?」
内股に押し付けられたままだった自分の男根を、オルバンはほんの少しティスの中心へとずらした。
熱いものが肌を滑る感触にはっとして、ティスは下肢の方を見やる。
そこに構えられた、赤黒く逞しい肉棒に眩暈のような官能を覚えた。
あれが欲しい。
「どこをどうするのが、一番いいんだ」
とどめのような誘惑に逆らうことは出来ない。
性器からあふれた半透明の体液をまとった、ティスの指先は開かれた足の奥へと向かう。
白い尻の谷間、奥でひくひくと息衝く穴へとぬめる指は触れた。
「あぅ……っ、んっ…………」
正面からでは指の本当に先の方しか入らない。
けれどその物足りなさが飢餓感を煽る。
じんじんとうずく狭い通路は、細い指先を食い締めるようにぎゅうっと締め付けた。
「あ、ん…………、ここ、穴に、入れ、入れるのっ…………、好きっ…………」
必死に腕を突っ張らせ、少しでも奥へ入れようともがきながらティスは言う。
「この穴に、何を入れるのが好きなんだ?」
甘く低い、そして明らかに答えを知っている声に導かれ、ティスは淫らな欲求を口にした。
「オルバン様のっ…………、硬くって……太いのっ、入れるの、好きっ……」
「嘘をつくなと言ったのをもう忘れたのか」
わざとらしくつぶやいて、オルバンはこう付け足した。
「ただの棒を突っ込んでもよがるくせに」
恥ずかしいがそれは事実だ。
けれど本当はそうじゃない、分かっているくせに。
手酷く犯されたいだけなら、それこそイーリックの側にいたって良かったのだ。
ヴィントレッドに飼われるのでも構わなかったはず。
だけど、どうしようもなく淫乱でかつ贅沢にこの体をしつけたのは一体誰だと思っているのか。
残酷な火の魔法使いに精液を注がれることだけしか考えられない、愚かな奴隷に自分を変えてしまったのは誰か。
「オルバン様のが…………、オルバン様じゃなきゃ、だめ…………」
恐れ、怯え、そうじゃないと否定していた想い。
傲岸不遜、冷酷非道な魔法使いの存在に体だけではなく心まで囚われてしまったこと。
同じように抱かれても同じだけの充足など得られはしない。
押さえつけられ、焦らされているこの瞬間でさえようやく会えたという喜びも相まって心臓が破裂しそうなぐらいに鼓動が早まっている。
ティス自身が他の男とオルバンとを明確に区別してしまっているのだ。
この先オルバンが自分に飽きない保証などありはしないと分かっているのに。
「オルバン様、好き、です…………入れて…………お願い、犯して下さい…………」
気まぐれで飽きっぽいこの男には、切なる懇願など意味を持ちはしない。
けれどティスはただの人間であり、その上もう自分の心を偽ることも出来なくなってしまっている。
笑い飛ばされることを覚悟の上で、真正面からぶつかるしかなかった。
するとオルバンは、正面からティスを見下ろしてこう言った。
「オレは馬鹿な人間も馬鹿な魔法使いも嫌いだ」
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