俎上の子羊・2



見る者に威圧感を与える見事な美丈夫だが、それらのことより目を引くのは向かって右目を覆う眼帯だろう。
「なかなか度胸のあるガキだ」
男はそう言うと、怯えるルシアンににやっと笑いかけた。
部下に剣を引かせ、片方だけ覗く黒い瞳でじろじろと少年を見つめる。
「可愛い顔をして、いっぱしの聖職者気取りか。いいぜ、オレはそういうのが大嫌いだ」
にやにやしながら不穏な言葉を吐くが早いか、彼は自分の剣をルシアンに向ける。
「うわっ……!」
目にも止まらぬ速さで振り下ろされたそれに、ルシアンは悲鳴を上げた。
だが飛び散ったのは血ではなく、紺色の修道着の布地。
上半身を露にされたルシアンは、後ろに手をついたまま固まってしまう。
「ふうん、やっぱり男か」
白い胸元をつまらなさそうに一瞥した男に、ルシアンは混乱してしまった。
「な……、な、なに………」
「だが男の身の方が、余計に屈辱的だろう。なあ?」
男の言葉に、盗賊たちが笑い始める。
ルシアンにはさっぱり状況が掴めないが、盗賊たちの間ではすでに意思が疎通しているらしい。
頭も好きだよな、などという声を背に、男は今の衝撃でルシアンが放り出した聖典を見た。
また剣が振り下ろされる。
どすっ、という鈍い音を立て、男は自分の剣の切っ先を聖なる書物に突き刺したのだ。
「何を!?」
蛮行に目を見張るルシアンの前に、彼は剣先に刺さった状態の聖典を突き付けて薄く笑う。
「なあ、アルロイド大教の修道士様よ。オレはブレイク。生まれ付き地獄行き間違いなしと、お前たちの神様に言い渡された男だ」
ブレイクと名乗った男はそう言うと、ごみでも払うように突き刺した聖典を振り捨てた。
元々かなり使い込まれていたものだ。
乱暴な扱いに綴じが外れ、聖なる文字の書かれた黄ばんだ紙が無残に辺りに振りまかれる。
あまりのことに呆然としているルシアンに向けて、ブレイクは軽くあごをしゃくった。
「足を開かせろ」
横柄な命令に彼の部下たちはただちに応じた。
「何…、や、嫌だ、何をする、やめなさい!」
気丈な態度を取ってはいても、ルシアンは一介の修道士でしかない。
数人がかりで押さえ込まれれば抗うことなど出来なかった。
残りの衣服もほとんど裂かれ、大きく足を開かされる。
淡い色をした性器とその奥に潜められた穴を見て、残りの盗賊たちもにやにやし始めた。
「結構可愛い顔してるじゃないか」
「他に女もいなかったしな」
「案外それ用のガキなんじゃねえか?」
口々に飛び交う下品な言葉の意味をおぼろげに悟り、ルシアンは顔を真っ赤にする。
「やめなさい、男同士でこんな……! 神罰が、神罰が下りますよ!」
「下してみろよ、修道士様。オレにこれ以上の罰を与えられるものなら」
ブレイクはそう言って、剣を腰に戻した。
眼帯を留め付けていた紐を解き、彼はその下に隠されていた右目を露にする。
ルシアンははっと息を呑んだ。
ブレイクの右目はえぐり取られており、そのままで固まった傷口が不気味な隆起を見せていた。
「生まれ付き、オレはこっちの目が青かったんだ。それが悪魔の印だと言われて、偉い修道士様にガキの頃えぐり取られた」
恐ろしい光景に硬直しているルシアンを見下ろし、ブレイクは残された黒い瞳で冷たく笑う。
「母親が悪魔と密通したからだとさ。おかげで盗賊にでもなるしかなかった」
言って彼はゆっくりと眼帯を直し、元の姿に戻った。
そのかさついた手が細い足首に触れる。
嫌がってルシアンがまた暴れ始めると、彼はくいっと部下たちにあごをしゃくった。
常備品らしい太い縄が数本取り出される。
盗賊たちはそれでもって、ルシアンの右手と右足首、そして左手と左足首を無理やり縛り付けてしまった。
「痛い、やめ、やめなさい!」
無理な姿勢と食い込む縄が、ルシアンにひどい苦痛を与える。
腰を浮かせて足を開いた、まるで誘うような淫らな姿を見下ろし取り囲む男たちは口笛を吹いた。


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