Don't Leave me ・8



だがそれを瞬時にいつもの寡黙な表情で覆い隠し、彼はアシェンをそっと抱き寄せ優しく言う。
「分かった。誰にも言わない。二人だけの秘密だ」
ジラルドの腕の中、アシェンはこっくりとうなずく。
「……うん。秘密。二人だけの………」
か細い声で繰り返すアシェンの背を、ジラルドはしなやかな指先で撫でてやった。
「大丈夫だ。オレが付いている。……間に合わなくて、本当に済まなかった。もう二度と、こんな怖い目には遭わせない」
耳元でささやかれる確かな約束に、また涙がにじむのを感じる。
「ジラルドさん……」
がっしりとした、見た目よりも遥かに力強い感触の胸に抱かれてアシェンは涙ぐみながら言った。
「うん、……ま、守って、僕のこと……」
最初に助けられた立場ということもあり、アシェンは今までジラルドに何かしてくれと言ったことがない。
ここへ来るのも、パイなどを差し入れするのも、全ては自分がそうしたくてしていることだ。
商売人の一家に生まれたアシェンは、幼いながらに結構しっかりしている。
こちらは恩を返す立場であるという自覚は強い。
だからジラルドが本気でうっとうしい、もう顔を見せるなとでも言えば、アシェンはただちに彼のところへ来るのをやめるだろう。
そこで二人の縁は切れ、アシェンにとってのジラルドは時折胸の内でそっと感謝の言葉を述べる、そんな存在になるに違いなかった。
なのに今、少年は弱々しい声でジラルドにすがり庇護を求めている。
想像もしなかった災禍に打ちのめされ、みじめな小動物のように震えている。
一方のジラルドもまた、常とは違う奇妙な動きを見せていた。
アシェンの背を慈しむように撫でる、その指先は時折少年の髪やうなじ、時には耳元をかすめる。
されるがままの状態のアシェンだったが、ささいな行為が積み重なってくる内に次第に体がむずむずして来た。
「ジ、ジラルド、さん……あの……」
「どうした?」
低く問い返すジラルドの息遣いは近すぎるようにも聞こえた。
いや、違う。
耳元にかかる吐息に自分が過敏に反応してしまっているのだ。
遠くに去ったはずの熱がじわじわとぶり返してくる。
恐怖と、そして認めがたい快楽の記憶が鮮やかに蘇って来た。
「……は、放して!」
思わずジラルドを突き放し、アシェンは大きく胸を弾ませる。
だが動いた拍子に、体の奥で何かが動いた。
「…………あぁっ……」
声が漏れる。
体の表面は確かに清められた。
しかし深い部分まで汚されたこの身の内には、魔物の放った体液がまだ残されていたらしい。
それが今の動きにより、外へと漏れ出してきたのだ。
「アシェン?」
いかにも心配そうに、ジラルドは少年の名を呼ぶ。
「どうした…………痛むのか」
伸ばされた指先がアシェンの素足に触れる。
途端アシェンはびくっと大きく体を揺らした。
「やっぱり痛むんだな」
痛む部位に見当が付いているらしき彼の目は、自分の上着に頼りなく覆われたアシェンの太腿の辺りに向いている。
全身を拭いてくれたと言っても、ジラルドが拭いたのは背や肩などだ。
犯された部分についてはあえて触れず、アシェンが自分で始末をするに任せていた。
アシェンも痛いのに加え、されたことがことである。
すでにあふれ出していたものをとりあえず拭った後は、怖くて自分でもあまり触ることが出来なかった。
だが今、アシェンに不自然な行動を取らせているのは痛みではない。
「う、ううん…………痛いんじゃ………」
「じゃあどうした? なぜ、そんな風に眉をひそめているんだ」
ジラルドの追及にもアシェンは顔を赤らめ口を閉ざしたきり。
こうしている間にも奥からぬるい精液が染み出してくるのが分かる。
それに伴い、一度は収まったはずのうずきが大きくなって来る。
「……あっ……!」
ぶかぶかの上着の下、反応を示し始めた自分のものをアシェンは慌てて手で覆った。
しかしその動きが逆に、アシェンに起こっていることをジラルドに知らせてしまったようだった。


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