Don't Leave me ・9



「恥ずかしがる必要はない」
全てを理解している瞳をしてジラルドは言った。
「魔の中には、媚薬の効果のある体液を持つ者もいる」
「媚薬……?」
聞き慣れない単語を聞き返したアシェンの、無防備な素足にジラルドの指先が触れる。
「気持ちが良くなる薬のことだ」
長い指がつうっと肌を滑る。
その指が上着の下に入り込むのを感じ、アシェンはびくっとした。
「ジラルドさん……!」
まさかの思いに青ざめ、必死になって叫ぶアシェンにジラルドは何でもないように言う。
「かき出してやろう」
「……えっ?」
思わぬ台詞にまじまじと彼を見れば、赤い瞳が平然と見返して来た。
「中に、残ってるんだろう。そのせいでおかしな気持ちになっているんだ。だから全部かき出してしまえばいい」
当たり前のようにしゃべるのを聞いていると、アシェンは羞恥に顔を赤らめる。
馬鹿な思い違いをしてしまった。
ジラルドが自分におかしな真似などするはずがないのに。
「そ、それは……だけど…………」
誤解は解けたが、さすがにその申し出は気が引ける。
あんなところからそんなものをかき出すなんて、幾らなんでもそこまで彼にさせるわけにはいかない。
アシェンの気後れを読み取ったようにジラルドは続けて問う。
「自分でかき出すか?」
一瞬考え込んだ後、アシェンはますます赤くなって首を振った。
「で、出来ないよ、そんなの……」
泣きそうになりながらつぶやけば、ジラルドはかすかに微笑んで言った。
「だからオレがしてやる。大丈夫だ、誰にも言わないから」
力付けるように言った彼の笑みが、わずかに陰る。
「それにオレには、しゃべろうにもお前以外にしゃべる相手はいない」
孤独をにじませた一言がアシェンの胸を突く。
いつもどこか寂しそうな人だと思っていた。
力になれたらと、勝手に思っていた。
だがジラルド自身の口から、こんな風な台詞を聞くのは初めてだ。
「ごめんなさい、ジラルドさん……」
考えてみればおととい、ジラルドは珍しく不機嫌だった。
なぜ怒らせたのかも分からないままで、結局謝ることだって出来ていない。
それなのにジラルドはここまでしてくれようとしている。
もっと早く来てくれれば、なんて……自分はなんと身勝手なのだろう。
「め、迷惑……いつも……ごめんね……」
心からの気持ちを込めてアシェンが言うと、一瞬ジラルドはたじろいだような表情になった。
「…………気にするな。オレは…、オレは、お前に……いつものように、その、元気でいて欲しいだけだ」
ぼそぼそとつぶやくと、彼は一つ咳払いをして口調を改める。
「うつ伏せになって、足を開いてみろ」
事務的に言ってくれているけれど、やっぱりアシェンはためらった。
でも、もう結構時間が経ってしまっている。
このままでは家に戻れないし、ジラルドにもかえって迷惑だろう。
「……ご、ごめんね…………」
もじもじしながら、言われるままにアシェンはうつ伏せになる。
そろっと足を開くと、ジラルドの手が上着の裾をめくろうとした。
「あっ」
驚いて思わず振り返ると、ジラルドは苦笑いして言う。
「今更恥ずかしがるな。嫌だろうが、見ないと出来ない」
「そっ、そうだよ、ね」
更に赤くなりながら、アシェンはまたうつ伏せに戻る。
「少し腰を浮かせてくれないか」
これにもおとなしく従い、アシェンは緩く足を開いて尻を浮かせた。
ジラルドの指が自分が貸し与えた上着を細い腰辺りまでめくる。
すり跡の残る痩せた太腿がまず覗き、やがて下半身が完全に露になった。
かすかな空気の流れがアシェンの過敏になった素肌を撫でる。
ジラルドの視線を感じ、むき出しの白い尻がぶるっと震えた。
その中央、今は薄赤く染まった愛らしい穴は粘液に濡れている。
ジラルドは魅入られたように瞳を細め、無言で右手の人差し指を舐めた。
濡れて光る指が一本、そこに触れる。
「……んっ」
背をしならせ、アシェンが声を詰まらせるとジラルドは小さく口の端を吊り上げた。
そのまま、人差し指を押し込んでいく。


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