Don't Leave me ・10



「あ、あっ……」
異物の侵入に、アシェンは苦しげに声を上げた。
指先がぎゅうっと敷布を掴む。
「痛いか?」
優しいジラルドの声に、アシェンは首を振った。
痛いわけじゃない、ただ…
「動かすぞ」
一言前置きをして、ジラルドは差し入れた指をゆっくりと曲げる。
傷付いていることを考慮した、緩慢な動きだ。
だがそれにアシェンの体は敏感に反応した。
「あ、……ん、んっ」
くちゃりと音を立て、中に吐き出されたものがかき出されていく。
耳まで赤く染めながら、アシェンはジラルドが指を動かすたびに切ない息を吐いた。
「ぅ、んんんッ」
尻の狭間を伝い、精液が敷布を汚す。
それに気付いたアシェンは謝ろうとしたが、ジラルドの指が不意にある一点を掠めた。
あの魔物に繰り返しこすられた場所だ。
「あん!」
高い声を上げ、アシェンは彼の指をきゅっと締め付けた。
「どうした?」
指を止めたジラルドに聞かれ、アシェンは必死に首を振る。
「ごめんなさい、何でも、ない、です………」
そうは言うものの、再び動き出した指がまたそこに触れるとアシェンは大きく身を震わせた。
媚薬とやらをかき出してくれているのは分かっている。
なのに、皮肉なことにジラルドの尽力によりいやらしい成分が余計に中に染みていくようだ。
懸命に反応を抑えようとするその可愛らしい姿を、三つの赤い瞳が満足そうに見ていることにアシェンはまだ気付かない。
「はっ……、あ……、あぁっ……」
ぬるぬるとしたジラルドの指の動きは、あの魔物が自分を犯す前にしたことにひどく近い。
思い出したことに官能を煽られ、アシェンはなす術もなくあえいだ。
おそるおそる下肢に目をやれば、自分のものはすでに頭をもたげている。
知られたくなくて、アシェンは足を閉じようとした。
だがその動きが更にジラルドの指を締め付ける。
「アシェン……そんなに締め付けるな」
困ったように言われて、アシェンはまたぶるっと体を震わせる。
澄んだ青い瞳に、羞恥と情けなさの余り涙がにじんだ。
「ご、ごめんなさい、僕…………自分でも、どうにもっ……」
かすれ声で言うアシェンの声を聞き、ジラルドは無言で指を引き抜いた。
呆れられてしまったのかと悲しい気持ちになった瞬間、腰に強い力がかかった。
「あっ!?」
抱き上げられ、そのまますっぽりとジラルドの腕に包まれる。
背に密着した彼の体温にぞくりとしたアシェンの耳元に、こんなささやきが聞こえて来た。
「このままじゃ辛いだろう」
何もかも分かっていると、そういうような彼の声。
いつも通りに静かで優しいのに、今はなぜかアシェンの胸を騒がせる。
思わず振り仰いだ顔は、見る者を畏怖させるほどに冷たく美しい。
「……ジラルドさん…」
見慣れているはずの彼の目の奥に、見知らぬ熱い光がある。
恐ろしいような美貌に、まるで囚われたようにアシェンは目が離せなくなった。
形良い薄い唇が近付いて来る。
声を上げる暇もなく、それはあっさりとアシェンの唇をふさいだ。
「……んっ……!? ……ん、んっ……」
驚き、身もがこうとする少年の抵抗は強い腕と甘い唇に阻まれる。
「ふ、ん……、んぅ………」
食べてしまおうとでもするかのように、ジラルドは何度も角度を変え執拗にアシェンの唇を貪った。
「ふあ……」
眉を寄せ、初めての口付けに息切れしたアシェンが口を開ける。
待ち構えていたジラルドの舌はその中にたやすく侵入した。
「あふ、んっ、ん……」
含みきれない唾液が仰け反った顎を伝う。
強引に舌に舌を絡められ、先を吸われると背筋が痺れた。
「んん…、ん、んっ………」
アシェンの指先がジラルドの服を掴む。
やめて、ともやめないで、とも取れるしぐさだった。
それを確認し、ジラルドはようやくアシェンの唇を解放する。
熱っぽく潤んだ瞳を見つめ、同じ熱に濡れた目をして彼はささやいた。
「オレが清めてやる」


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