Don't Leave me ・16
絶頂の高波が迫って来ている。
さっきは甘美なその波に抗おうともがいたけれど、結局は呑み込まれてしまった。
そのことにひどくアシェンは傷付けられた気持ちになった。
だけど今回、快楽の波を連れて来たのはジラルドだ。
彼に抱かれて果てたなら、きっとあの魔物に与えられた恐怖と官能を忘れてしまえる。
「あっ……、あーっ、ジラルドさん……!」
ジラルドがくれた言い訳にすがり、アシェンは次第に大きくなる快感に素直に身を任せた。
「可愛いアシェン…」
呼び声に応えるように、ジラルドの動きも更に速く、深くなっていく。
「あぁッ、来るよぉ、もうだめ、ああっ……!」
「アシェン…!」
もう一度名を呼び、ジラルドは最早アシェンを気遣う余裕を失ったように力いっぱい細い体を突いた。
「ジラルドさんッ、あ、あ…!」
最大限にまで太くなった彼の男根が、叫んだアシェンの中で爆発する。
アシェンも硬く張り詰めた性器から精液を吐き出しながら、身の内に放たれる奔流を感じていた。
「ああ、ぁ……」
奥に向かってどくどくと白濁が注がれていく。
二度目の感触を味わいながら、アシェンはぐったりと体の力を抜いた。
ジラルドもその上に覆い被さったまま、荒い息を吐いて動かない。
だがその指は、収まりきらない興奮を示すかのように抱き締めた背や肩を優しく撫でている。
達成感に満ちた赤い瞳に、たった今征服したばかりの白い体が映り込んでいた。
「どこにも、行かせない……」
小さな小さなささやきは、アシェンの耳に届くことはなかった。
***
結局もう一度、アシェンは汚れた体をジラルドに拭いてもらった。
彼は中まで清めてくれようとしたけれど、さすがにそれは顔を赤らめ断った。
「いい……よ。後で、自分で、するから……」
もう大丈夫だとつぶやけば、何とか丈の合う服を見繕ってやりながらジラルドは言った。
「……まだうずくのか?」
更にかあっとアシェンの頬が紅潮する。
彼の言う通りだった。
あの魔物とジラルドを続けて迎え入れ、体はすっかり疲労している。
なのに、切ないうずきが奥にくすぶっていた。
今は疲労の方が勝っているので堪えられるが、きっと時間が経てば淫らな熱はぶり返してくるだろう。
ここで中をいじられたりしたら、同じことの繰り返しになってしまうかもしれない。
「また来ればいい」
帯を調整し、とりあえず家に戻って着替えるまでの衣装を着せ付けてやりながらジラルドは何でもないように言う。
「欲しいと思った時に…………また来ればいい」
帯を締めるため、自分に抱き付くような格好になっている彼の言葉にアシェンは赤い顔をうつむける。
「そ、そんな…………、迷惑……」
「迷惑じゃない」
自分とお揃いのような格好になったアシェンを見つめ、ジラルドは意味ありげに微笑んだ。
「お前は嫌がるかもしれないが……とても、可愛かった」
睦言のように甘い声でささやかれると、顔を上げられない。
もじもじしているアシェンを優しく見つめていたジラルドの目が、ふと細まった。
「…………だが、そうすると、諦めなくてはいけないんじゃないか」
急な言葉に顔を上げると、彼は奇妙に静かな瞳でアシェンを見つめている。
「山向こうの町に立派な学校が出来たそうじゃないか。算術なんかを教えてくれると聞いている。お前も商売人の子だ、行く気だったんじゃないのか?」
きょとんとして、アシェンは赤い瞳を見つめ返した。
「そんなのが出来るんですか?」
ごく単純に不思議そうに聞き返され、ジラルドはひどく動揺した顔をした。
「僕よりジラルドさんの方が、この辺のこと知ってるなんて珍しいですね。そうか、そんなのが出来るんだ」
「いや……、その」
まだ激しく動揺した顔をしたジラルドは、ぽろりと一つの名前を漏らした。
「カルアンが……」
「兄さんが?」
五つ年上の兄の名を聞き返すと、ジラルドは慌てたように口元を覆った。
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