Don't Leave me 第二章・2
「んふ……、ん…………、んん」
甘ったるい声を漏らしながら、震える指で欲しいところをこすってみる。
「ん、んんっ」
痺れるような快楽が湧き起こり、爪先がぎゅっと敷布を握り締めた。
この有様では到底まだジラルドのところになど行けない。
会えばまた欲望を見透かされ、彼の手を煩わせてしまうだろう。
けれど、会わずにいようと思えば思うほど、アシェンの頭の中はジラルドと彼が与えてくれる快楽でいっぱいになってしまう。
今日も商品の個数の計算を間違えて、兄が怒るかと思ったら逆に心配された。
彼が言うには、アシェンは最近どうにも様子がおかしいらしい。
そうかな、などと言って適当にごまかしているが、自分でもぼんやりしていることが多いことには気付いていた。
理由は簡単で、肉体が覚えてしまった快楽を欲しがってうずいているからだ。
気を抜くと淫らな妄想が浮かんで来て、アシェンの手を止めてしまう。
それを抑えるため、アシェンは夜毎家族に隠れて自慰に耽っていた。
けれど不思議なことに、どれだけ精液を吐き出しても体は満足してくれない。
あの日魔物に犯されるまで、アシェンはあまりこの手のことに興味がなかった。
自慰を知らなかったわけではないが、毎夜のようにしなければならないほど欲求不満だったわけではない。
だが今となっては、なぜかすればする程飢えていくような気さえする。
これだけじゃ足りない。
指なんかより、自分でするよりもっともっと気持ちがいいことをすでにアシェンは知っているから。
「……ん、んっ………」
うっすらと涙ぐみながら、彼は自分を追い上げることだけに努めた。
ジラルドに貫かれ、淫らに鳴かされた記憶が頭に浮かぶ。
アシェン、と、優しい声でささやく響きがまた耳元に蘇って来た。
「あっ、あ……!」
急速に快楽が強くなる。
自分の指をぎゅっと締め付けながら、アシェンは呆気なくこの夜二度目の絶頂を迎えてしまった。
左手を濡らし、白濁がとろとろと敷布に零れ落ちる。
虚脱感と眠気に襲われながら、彼はふらふらと立ち上がり汚れた敷布を剥いでベッドの下に突っ込んだ。
何事も自分のことは自分でする、が鉄則の一家であることがこういう時は幸いする。
明日の朝、家族が起き出して来ないところを見計らって洗い桶で処理をしてしまえば大丈夫。
手だけを先に洗って来てから、閉め切っていた窓を開け放つ。
夜空に煌々と光を放つ銀の月は、どこかジラルドにも似ている。
「…………早く、会いたいな」
まだ快楽の余韻が残る瞳を伏せ、切ない声でアシェンは言った。
そして敷布を失ったベッドに身を横たえ、虚脱感の中に吸い込まれるように眠りに落ちた。
***
翌日、何とか敷布の始末をしたアシェンはいつも通りにしていた。
ところがそのつもりでいたのは本人だけだったらしく、昼過ぎにいつも厳しい父親が突然こう言ったのだ。
「アシェン、お前は今日はもういいからしばらく休んでいろ」
びっくりしたアシェンだが、兄のカルアンまでいっしょになってこう言った。
「目の下、くま出来てるぞ。いいから休んでろって」
連日の寝不足のため、アシェンの顔色は相当悪い。
疲れている自覚もあるが、事情が事情である。
後ろめたさもあってアシェンはいいよ、と言ったが、カルアンは問答無用で弟の腕を引っ張り部屋へ戻してしまった。
その上彼もすぐには出て行かない。
戸惑いながらとりあえず、ベッドに座ったアシェンの前に椅子を引いてきてその上にどっかりと腰かけてしまう。
ますます戸惑うアシェンだが、カルアンの表情はむしろいつもよりも優しいぐらいだった。
「……そんなに、あいつと仲良くなってるなんて知らなかったんだよ」
ふてくされたような一言に驚けば、カルアンはばつの悪い顔になりがりがりと頭をかく。
「悪かったよ、あんな嘘ついてさ」
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