Don't Leave me 第二章・6



それを聞いたアシェンはひくっと小さく喉を鳴らした。
「そんな…」
突き放すような一言に、目の前が真っ暗になる思いがする。
なぜそんな風に言うのか分からない。
ひどく傷付いた顔をしているアシェンに対し、ジラルドは事もなげにこう言った。
「汚れるのが嫌なら、服を脱げばいい」
手伝ってやると言わんばかりに、彼はアシェンのズボンに手をかけようとまでして来る。
まだどこか呆然としながら、アシェンは思わずつぶやいた。
「なんで、そんなに怒ってるの……?…」
本当に分からなかった。
六日も顔を出さなかった、そのことを責められるならまだ分かる。
でも、恥ずべき欲望を自分で始末しただけなのになんで彼が怒るのだろう。
ジラルドの手を煩わせまいとしただけなのに。
これ以上軽蔑されたくないと思っただけなのに。
眉根を寄せ、悲しそうに見つめるとジラルドは一瞬目を逸らした。
なぜか彼の方が辛そうなのを見て、アシェンはますます混乱してしまう。
しかしジラルドは、次の瞬間またじっと少年を見つめて言った。
「誰だ?」
すがめられた赤い瞳が底光りして見える。
背筋に冷気が走ったような気がして、アシェンは戸惑いながらも大きく首を振った。
「な、に……? 意味、分からないよ」
怒っている理由を聞いているのに、誰だと言われたって困る。
「僕…………そんなに悪いこと、した……?………」
恥ずかしいことなのはアシェンだって承知だ。
性器をいじるだけでなく、後ろの穴を使って慰めないとこの体は収まらないのだから。
自らの痴態を思い出すとまた恥ずかしくなって来る。
顔を赤らめてうつむくと、ジラルドの表情が険しさを増した。
「あっ!」
いきなり、体を返される。
うつ伏せになったところで、下肢の服をまとめて引き下ろされた。
小さな白い尻が空気にさらされる。
逃れようとした背にジラルドが覆い被さってきた。
その上太腿辺りまで下ろされた服に拘束されては、足をばたつかせることさえ出来ない。
「だっ……、や、嫌だジラルドさん!」
大きな手が尻肉に触れる。
二つに分けるように左右に広げられ、羞恥に身をよじってもどうにもならない。
「やめて……、だめ、だめっ」
指先が、くすぐるように谷間を辿る。
人差し指できゅっと閉じた穴を引っかくようにされると、体がわなないてしまった。
独りベッドに潜り込み、家族にばれはしないかとはらはらしながら自ら慰めていたのとは全く違う感覚。
他人の手で強引にされていると思うだけで、羞恥も快楽も飛躍的に高まるのはなぜだろう。
それとも他人と言うより、ジラルドにされているからだろうか。
「……嫌だよ!」
自分で考えたことを自分で否定するように、アシェンはいつになく強い声で叫んだ。
「僕、ジラルドさんと前みたいにしたいんだから……! こんな、だめ、……あっ!?」
痛いぐらいに尻肉を押し広げられる。
うっすらと口を開けた穴の縁に、ジラルドは軽く舐めた指先を差し入れてきた。
「……んっ、あ…!」
ぴくぴくと震える手が敷布を掴む。
節くれた長い指は苦もなく第二関節まで小さな尻に潜り込み、その辺りを引っかくようなしぐさをし始めた。
「前みたいに?」
低い声で笑ったジラルドは、過敏な反応を返す少年のうなじにそっと唇を寄せる。
「……あぁ…」
息を吹きかけられ、我知らず切ない息を吐いたアシェンの髪の生え際をちろちろと舐めながら彼はささやいた。
「オレではそんなに不満だったのか?」
凍えた怒りと、一筋の悲しみの入り混じった声音に訳が分からなくなる。
でも今は、意識がどうしても入れられた指の方に傾く。


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