Don't Leave me 第二章・7



「や、んんっ…………、そこだめっ……」
ジラルドの指は、すでにアシェンの弱い箇所を知っている。
気持ちがいいところを指の腹で擦られるとたまらない。
敷布に押し付けられた胸元で、硬くなった乳首が痛いぐらいだ。
快楽を堪えることに手一杯で、抵抗も出来なくなったアシェンの上からジラルドは下方に体をずらした。
背筋を辿りながら舌先が降りていく。
やがて指でいじっている部位へと顔を近づけたジラルドは、ちゅぽんと音を立てて指を抜いてしまう。
代わりにとがらせた舌先を、ためらいなく中へと突き入れた。
「ひゃっ……!」
びくっと背筋を逸らし、アシェンは大きな声を上げてしまった。
「やっ……! 舐め、舐めちゃ、あぁっ……」
頂点に達した羞恥が、敏感になった体をもっと敏感にする。
衣服に拘束された白い太腿にうっすらと汗が浮いていた。
ジラルドは両手でアシェンの尻を押し広げ、その中央に顔を埋めている。
ぴちゃぴちゃという淫らな音が、形良い唇から這い出た舌が動くにつれてひっきりなしに上がっていた。
白い尻の中、ぽつりと赤い可愛らしい穴に魅せられたように彼は執拗にそこを舐めしゃぶる。
「ジラルドさん……っ、だめだよ、これ以上、僕、だめぇ……」
うわごとのようにつぶやきながら、アシェンは弱った小動物のようにか細い息を吐くしか出来ない。
このままではいけない。
浅ましくも彼に貫かれてよがり狂い、後で死ぬほど後悔してからまだたった六日だ。
会えなくて寂しかったけれど、こんなことをするために今まで我慢して来たんじゃない。
なのにアシェンの切ない心中など知らぬジラルドは、ようやく顔を上げたと思ったらこんなことを言い始めた。
「欲しいか」
はっと背後を振り返れば、目元だけで意地悪く笑う彼と目があった。
「欲しいかと聞いてるんだ」
何を、とは聞かなくてももう分かる。
しかもジラルドは、たっぷりと濡らされた穴にまた指で触れてきた。
「……んっ…………!」
何の抵抗もなく、ぬるぬると潜り込んで来た指にアシェンは声を詰まらせる。
それどころかもっととねだるように、内壁が彼の指を締め付けた。
「…………ここは素直だな」
からかうように言われると、全身がかっと熱を持つ。
淫らな行為を覚えてしまった故の反応を揶揄されると、恥ずかしさのために余計に感じてしまう。
後ろの穴が自分でも分かるほどにきゅっと締まって、ジラルドが低い忍び笑いを漏らした。
「やめてよ……」
か細い声でアシェンは訴え、逃れようと身をよじる。
だがまだ下肢を押さえ付けられている状態なので、尻を左右に揺するぐらいの動きしか出来ない。
むしろ誘っているようなしぐさに瞳を細め、ジラルドはもう一本指を入れ始める。
「ひぁっ! あぅ、やっ……!」
深くまで入れた二本の指を、彼は中で開いた。
唾液をまぶされ、てらてらと濡れ光る赤い内部がジラルドの前にさらけ出される。
「お前の気持ちがいいところは、オレが一番よく分かるつもりだ」
視線で犯すように覗き込みながら、ジラルドは暗い熱を秘めた声で言った。
「お前が望むなら…………人間には真似出来ないような快楽を教えてやる」
銀の前髪の下、三つ目の赤い瞳が光を放ち始める。
端正な美貌が凄みを増し、薄い唇の奥で牙が見え隠れした。
ただの子供でしかないアシェンにもはっきりと分かる、濃密な人ならぬ気配がその全身から漂う。
魔奏者と呼ばれる古い一族の本性を垣間見せた彼の誘惑は、ひどく恐ろしいのに途方もなく甘くも感じられる。
思えばこの体に最初の忌まわしい快楽を教えたのも魔物だった。
人には真似の出来ない快楽とやらでないと、自分はもう駄目なのだろうか。
「……そんなの…………」
思い付いてしまったことが胸を締め付ける。
それではこれから先もジラルドの手を借りなければいけないことになる。
もう忘れてしまいたいのに。
以前までのように、ただ同じ時間を共有するだけで良かった時に関係を戻したい。


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