Don't Leave me 第二章・12



「……ジラルドさん…………?」
激し過ぎる愛撫が突然中断されたことに戸惑い、アシェンは涙目で彼を振り向く。
いっそこの快楽から逃れたいとさえ思っていたのに、止められると途端に心細さを感じてしまう。
ここまで散々意地悪をされて来たのだ。
恥ずかしい告白すらしてしまったのに、と責めるように彼を見上げれば、ジラルドはなぜか鼻先を薄赤く染めている。
元が無表情で、何を考えているのか分からないところのある男である。
それがこんな風に顔を赤らめていると、普段との落差ゆえに何だか可愛らしくさえ見えた。
最も今のアシェンにそんなことを考える余裕はない。
むしろ、こんな状況で放り出されてしまったことに対する怒りさえ感じてしまう。
「…………自分で?」
繰り返されて、アシェンは瞬間かっとなった。
「そう、そうだよっ、……知ってるんでしょう、ジラルドさんの馬鹿……!」
もうひどいことはしないと言ったくせに。
何度辱めれば気が済むのか。
怒ったような顔をしているアシェンに、ジラルドは慌てた声を出した。
「いや、ちが…………そう……、……そうか」
一人で勝手に何かを納得しているジラルドは、だが妙に嬉しそうだった。
形のいい唇の端がだらしなく緩み、そこからひどくほっとしたような声が漏れる。
「そうか…………自分で…………」
だから、何度同じ事を言うのだ。
あまりの恥ずかしさに耐えられなくなって来て、アシェンは彼の下でじたばたともがき始めた。
「もうやだ! 帰る僕……っ、あ…………!?」
「すまない、アシェン」
そう言ったジラルドの手が、暴れるアシェンの体を押さえてしまう。
切れ長の赤い瞳に、真心と心からの謝罪があふれていた。
あまりにも真摯な表情に、怒りも忘れアシェンはどきっとしてしまった。
「オレが悪かった。もう本当に意地悪はしない。優しくする……」
指先が性器に触れる。
「はっ……」
先のくぼみを撫でさすられ、アシェンはたちまち甘ったるい声を上げた。
「ここからは、気持ちいいことだけだ。全てオレに委ねて、お前は何もしなくていい…」
白い尻に埋まっていた肉棒が前後を始める。
気遣いに満ちた丁寧な動きで、彼はまたアシェンの気持ちがいいところだけを集中して攻め始めた。
「あぁ……、んっ」
ジラルドの指先を濡らし、半透明の体液がとろとろと零れ出す。
また敷布に顔を伏せたアシェンの背に被さるようにして、ジラルドは蕩けるように甘い声でこう言った。
「熱くて、きつい…………可愛いアシェン。ここが好きか……?」
深い場所に埋まった硬い肉が、敏感な部分をぐりぐりと刺激する。
「あっ……、んん、あぁ、気持ち、い……」
行為と言葉に煽られて、アシェンは涙を流しながらそんな風に応じた。
理由も分からないまま意地悪をされても、やっぱりジラルドにされると自慰の何倍も気持ちがいい。
ただ単に、性感帯を攻められてよがってしまうということだけではない。
彼にされている、そう思うだけでアシェンの体は切ないうずきを覚えてしまう。
「好きか……?」
もう一度、今度は主語なしに聞かれたことに驚いてアシェンはぎゅっと後ろの穴を絞って応えてしまった。
オレのことが好きかと、そう聞かれたのかと思ったのだ。
でも今までの話の流れから、すぐに違うと判断する。
今ジラルドが的確にこすり上げているアシェンの中の一部分、ここを愛撫されるのは好きかと聞かれているだけなのだ。
だからアシェンも主語なしでこう答えた。
「ンッ…………、好き、好きっ、あぁ、好き……!」
僕、ジラルドさんのことが好きなんだ。
とうとう辿り着いてしまった、そして通じるはずがない答えを喘ぎに紛らわせながら口に出す。
「…………そうか。好きか……」
淡々としたジラルドの声。
嬉しいような悲しいような、曖昧な口調でつぶやいた彼はそれきり無言になりアシェンを攻めることに集中した。


←11へ   13へ→
←topへ