Don't Leave me 第三章・7



「んぐッ」
息苦しさに、反射的にアシェンは目を開けてしまった。
その目の中に、バベルの瞳の赤が飛び込んでくる。
「……ッン…………!」
焼かれるような痛みを感じた次の瞬間、全身が硬く強張った。
喉が干上がる。
声が出ない。
「おかしな奴だ。だが、お前がジラルドの玩具であることは間違いなさそうだな」
口を覆っていた手をゆっくりと引くと、バベルはアシェンを見下ろしたまま何事かつぶやいた。
額の赤い瞳が強い光を放つ。
すぐに変化は現れた。
その場に突っ立ったまま動けないアシェンの足に、音もなく絡み付く何か。
ぶよぶよとしたそれは湿り気を帯びており、ズボンをわずかに湿らせながらじわじわと這い登ってくる。
恐怖に総毛立ったアシェンだが、視線を下げることさえ叶わない。
毛むくじゃらの感触だけは覚えている、あの最初の魔物とは様子が違う。
けれど得体の知れない何かが足を這っていることは確か。
その上ぶよぶよとしたそれは、いつしかズボンを通り抜け直接肌に触れて来た。
個体と液体の中間のような性質を持っているのだろう。
布地をすり抜けたぬめる表面が太腿を伝い、内股に潜り込む。
「……っ…………!」
怯えて縮こまった性器を異様に柔らかな感触が包んだ。
ぬるぬるとした巨大な舌が、焦らすようにアシェンのものを舐めずる。
恐怖と嫌悪感とともに、認め難い快楽がどうしようもない強さで背筋を駆け抜けた。
「…………んっ……」
見開いたままのアシェン瞳の縁に涙が盛り上がる。
それを見て、エルゼの小さな唇に嫣然とした笑みが浮かんだ。
「ふふ、気持ちいいだろう………?」
きれいな顔をかすかに上気させ、彼はバベルの腕にしがみ付いたままつぶやく。
「お前みたいな汚らしいガキが、バベル様に遊んでもらえるんだ。光栄に思うんだね」
高慢な一言に言い返すことも出来ないまま、アシェンはなすすべもなくふるふると身を震わせる。
彼の腰から下に、月の光に妖しく光る半透明の物体がまとわり付いていた。
バベルの意を受けたその魔物は、切なく眉をひそめたアシェンの小さな尻の隙間に潜り込んでいく。
内側から尻たぶが押し開かれ、奥で息衝く桃色をした穴がそれにつられて薄く口を開けた。
「……んッ! ん、ふ、はぁっ…………」
細く先を尖らせたぬめる何かが、そこに頭を突っ込んで来る。
何度もジラルドを受け入れた穴は、自在に形を変える不定形の魔物をそのまま簡単に飲み込んでいった。
「あぁ! あ、あ、ああぅっ……!」
ぐちゅぐちゅとはしたない音を立て、体内に入っていくおぞましい感触にアシェンはがくりとその場に膝を突いた。
四肢にかけられた戒めの一部がまた解かれたようだ。
体が動き、いくらかは声も出せるが、そんなことが今は何になるだろう。
四つん這いの姿勢の少年の足に絡んだ不定形の魔物は、気付けば半分ほどの量になっていた。
つまりはそれだけの量のものが、アシェンの内部に押し入ったことになる。
しかもぷるぷるとした感触の魔物は、中に入っただけでは終わらない。
「ふぁ、あ、あーっ……やっ、ああ、ああんっ…………!」
淫らな音をさせながら内部に侵入した魔物は、妖しげな分泌液で更にアシェンの体を支配していく。
とろとろに塗れた内壁の中で柔らかな塊が蠢くたびに、その唇から喘ぎが漏れた。
「……あっ、あぁっ…………」
見た目上は服を着たままなのだが、その状態で不定形の怪物に陵辱される。
だらしなく開いた唇の端から唾液を零し、荒い息を吐くアシェンのあごをバベルは足先でぐいと持ち上げた。
ジラルドと同じ力を持つ瞳が、涙に曇る視界の中で強烈な輝きを放っている。
「お前の男に伝えろ。バベルが来た。大人しくオレに協力を約束するのなら、悪いようにはしない」
何のことだかアシェンにはさっぱり分からない。
だがバベルは、詳しい説明をしてくれるつもりなど全くなさそうだった。
「ただしオレに従わないのなら、お前の可愛いアシェンはスライムに狂うまで犯されるだろうとな」
言いたいことを終えると、彼は軽くアシェンをその場に蹴り転がす。


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