Don't Leave me 第三章・13



目元を覆われたままでいきなりそんなことをされ、アシェンはびくりと身じろいだ。
それに構わず、ジラルドは差し込んだ指を鉤爪のように曲げる。
その指先に、ぐにゃりとしたスライムの体の端がかかった。
手応えを感じた彼は、指先に引っ掛かったぶよぶよとした塊をアシェンの中から引きずり出していく。
「んん! ……ん、んッ…………」
無抵抗に引き出されていくスライムだが、濡れた表面は出て行く際も蹂躙され尽くした内壁を擦った。
さながら半透明の張り型をくわえ込まれているかのような少年を見つめる、ジラルドの瞳はきつくすがめられている。
「あ、あ、ああーっ……!」
一際高い声を上げたアシェンの中から、半透明の体液を引きずりながら魔物の最後の部分が引きずり出された。
ごぷっ、という音と共に、充血した穴から内部に溜まっていた粘液が吐き出される。
「あっ、あ……あぅ………………」
呆けたような声を上げるアシェンから引き出したスライムを、ジラルドは冷たく一瞥した後床に投げ捨てた。
粘着質な音を立てて落ちたそれは、すでに形を保つ力を失っていたらしい。
どろどろに溶解し、床に汚い染みを作ったのも束の間、その染みも揮発したように全て消えてしまった。
「ああ……」
下等な魔物による蹂躙からようやく自由になれたアシェンだが、半裸の白い体はいまだふるふると震えている。
露になった胸元と下肢では、乳首と性器は赤く腫れ上がったままの状態だ。
まだ目を塞がれたままなので、自分の中から引きずり出されたスライムがどうなったかまでは分からない。
けれど魔奏者としての能力でもって、ジラルドが体内の魔物を何とかしてくれたことは何となく分かる。
だがあの魔物に丸々二日間ほど嬲られ続け、引かない微熱とうずきに支配されていた体はまだ完全には解放されていない。
それどころかずっと体を満たしていたスライムを失ったことで、物足りなささえ覚えてしまう。
浅ましい欲望を理性で堪えるには、すでにアシェンは我慢を重ね過ぎていた。
「あぁっ…………、ジラル、ドぉ…………」
助けを求めるように、アシェンは見えない彼の体にすがる。
男に満たされたいと願う直接的な欲求とはまた別に、ジラルドに満たされたいという精神的な欲求が高まっていた。
バベルの名を口にしてしまった今、もう隠すことは何もない。
スライムなんかじゃなく、彼に抱いて欲しい。
するとジラルドは、不意に身を屈めアシェンに口付けをして来た。
「んっ……!? ンッ、ふ……」
舌をねじ込まれての強引な口付けは、獲物に喰らいつく獣のそれにも似ていた。
「ふぁ、あ、んっ………………」
くちゅくちゅと音を立てて舌を吸われ、捕らえられた舌先を浅く噛まれて呼吸さえ満足に出来ない。
ジラルドにすがることさえ出来なくなり、その手は緩く彼の腕に添えられたままだ。
「ん、んっ…………」
ぎゅっと目を閉じ、されるがままのアシェンからジラルドはその目を覆っていた指を外す。
そして空いたその手は、アシェンの胸元に忍び込んだ。
「んっ……!」
激しい口付けに溺れながらも、乳首を摘み上げられた感触にアシェンはぴくんと反応する。
至近距離でその顔を見つめる男の瞳の赤は、陰りを帯びた暗い輝きを宿していた。
まだそれに気付かないアシェンの、口腔をたっぷりと舐め尽くした舌を彼は引き抜いた。
「……ふ……っ、ん、ジ、ジラルド、さん……」
そろそろと目を開けたアシェンと間合いを合わせたように、ジラルドは顔を彼の胸元に伏せる。
「あっ……んん、あ、吸っちゃっ……」
牙を隠した唇が、さっきまで指でいじっていた乳首を包み込んだ。
数度きつく吸った後、舌先でくじるように何度も舐め転がされて息を呑む。
「ん…………っ、ジラルドさっ…………」
いつもよりも一際熱を帯びた愛撫に、体が芯から熱くなっていく。
ジラルドの熱に当てられた気分で、朦朧としながらアシェンは彼を呼んだ。
「教えてくれ……」
とろりと蕩けたアシェンの瞳に、ゆるりと顔を上げたジラルドの美貌が映る。
その途端、アシェンは身を強張らせた。


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